モンスターペイシェント・ハードクレームに対してとるべき対応
医師であれば、モンスターペイシェント(monster patient)という言葉を聞いたことがあると思います。
トラブルの初期対応については前回の記事で述べましたが、初期対応だけで収まらない可能性が高いのがモンスターペイシェントの特徴でもあります。
今回は、そのようなハードクレームへの対応につき説明いたします。
目次
1 モンスターペイシェント(monster patient)とは
モンスターペイシェント(monster patient)とは、医療機関の従業員や医療機関に対して自己中心的で理不尽な要求・暴言や暴力を繰り返すような患者のことをいいます。
モンスターペイシェントの要求は理不尽なもので、歯科医院側の論理的な説明にも耳を貸さないことが多く、対応に苦慮することも多いと思います。クレームのなかでも激しい部類に属するハードクレームといえそうです。
2 ハードクレームへの対応方法・留意点
ハードクレームへの主な対応方法及び留意点は、以下のとおりです。
2-1 冷静な態度で接する
クレームの初期対応の原則はクレームの内容把握ですが、それが理不尽かつ激しいハードクレームであったときには、決して相手の要求を呑まず、冷静かつ毅然とした態度で接することが重要です。
モンスターペイシェントからは、「訴えてやる」や「マスコミに流してやる」などという脅し文句のような言動がなされることもありますが、そもそもそのような行為をするかどうかは相手の裁量に属しますし、相手の要求が理不尽である場合には、裁判になったとしても十分対応可能であり、そのようなクレームであればマスコミも取り上げないはずなので、落ち着いて、冷静に対応してもらえればと思います。
2-2 クレームの対応者
一般的に、クレームへの対応者は最終責任者以外の者が良いとされています。相手からの予想外の要求に対して、「この場では即断しかねるため、責任者と相談して後日回答します」などという対応ができるからです。
もっとも、事情の分からない者に担当させると、相手に付け入る隙を与えてしまい、対応が後手に回ってしまうこともあるため、ある程度事案を把握している者が対応することが重要ですし、適任者がいないのであれば最終責任者である先生方が対応されることもやむを得ないと思います。
2-3 別室での対応の検討
モンスターペイシェントは、周囲の状況に関係なく騒ぎ散らすため、他の患者様との関係で営業時間内に待合室等で騒がれること等が迷惑な場合には、別室で対応することも選択肢に入れる必要があります。また、日時場所を指定して、営業日以外の日に対応することも考えられます。
2-4 対応する時間を区切る
ハードクレームの特徴は、同じような理不尽な要求を何度も繰り返すことです。
長時間に渡って応対しなければならない事態を防ぐために、最初から時間を区切っておくことが重要です。日を改めれば冷静な話し合いができる場合もあるため、この意味でも時間を区切ることは重要といえます。
2-5 患者の同意なしの録音・録画もOK
また、後の紛争や警察へ相談に行く際の資料として、面談の内容を録音・録画して記録化することも考えられます。
上記のような目的であれば、相手の了解をとらずに録音・録画しても基本的には法的に問題ありません。逆に、相手も録音をしている可能性がありますので、歯科医院側に不利益になるようなことが記録化されないよう、対応の際の言動には注意してください。
2-6 注意書きの掲示
ハードクレームに対応するための道具として、待合室に「暴言・暴力・迷惑行為等お断り」や「他の患者様に迷惑になるような行為はご遠慮ください」、「迷惑行為等の内容によっては診療を拒絶することもあります」などの掲示を貼っておくことも考えられます。
このような内容の掲示だけだと刺々しいと思われる場合には、患者様の荷物に関する掲示や携帯電話の使用等についての注意書きと一緒に掲示すると良いでしょう。
2-7 警察への通報
ハードクレームは、時として暴力や犯罪行為に発展することもあるため、警察への通報も視野に入れて対応したほうが良いです。警察が直ちにモンスターペイシェントを逮捕するなどという事態はなかなか起こりませんが、その場の事態を収拾してくれることもあるので、有効な手段であると考えます。
2-8 専門家への対応の一任も検討すべき
ハードクレームは、業務に支障をきたす可能性が高いと思われますので、弁護士等の専門家に対応を一任することも検討すべきでしょう。
3 ハードクレーム患者の診療を拒否できるか?
ハードクレーム患者の診療を拒否しても良いかどうかというのは、難しい問題です。歯科医師には応招義務(歯科医師法19条1項)があり、「正当な事由」がない限り診療を拒否することはできないからです。
この点、クレームに関する「正当な事由」の行政側の解釈としては、昭和30年8月12日医収第755号で、「医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、患者の再三の求めにかかわらず、単に軽度の疲労の程度をもってこれを拒絶することは、第19条の義務違反を構成する」とされているため、クレームの結果「事実上診療が不可能な場合」になったといえるかどうかが問題となります。
暴言や暴力が繰り返し激しくされるような場合には「事実上診療が不可能な場合」になったとして診療を拒否することも考えられますが、ケースバイケースですので専門家に相談することをお勧めします。
4 まとめ
以上ハードクレームへの対応をまとめると、
- ・相手の理不尽な要求を呑まず、冷静かつ毅然とした対応を心掛ける
- ・場所・時間の指定・限定、録音・録画及び弁護士対応について検討する
- ・注意書きを掲示する
- ・ハードクレームが続く場合には診療拒絶も視野に入れる
となります。
対応に困った場合には、お一人で悩まずに第三者に相談することも大事です。お気軽にご相談ください。
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