審美目的での歯科治療の注意点

 歯科治療を受けたい患者様の中には、歯を美しくするための審美目的で受診する方が多くいます。
 審美目的の歯科治療は、通常の治療行為とは別の観点から注意すべき事項がありますので、患者様とのトラブルを未然に防ぐために、先生方としても注意点を知ったうえで対策をしておかなければなりません。
 今回は、審美目的での歯科治療の注意点について説明いたします。

1 審美目的での歯科治療の特徴

 審美目的での歯科治療の特徴としては、以下に説明するような点が挙げられ、歯科医院としては、これらの特徴を踏まえて治療を行っていく必要があります。

1-1 審美目的での歯科治療は美容整形に近い

 審美性を目的としたホワイトニングや歯列矯正等の歯科治療は、健康の維持促進を目的とするのではなく、見た目の美しさを整えていくことが主目的とされています。そのため、医療行為としては美容整形に類似するといえます。
 もっとも、歯科治療においては、審美目的であったとしても、同時に発音機能の回復や噛み合わせの調整といった歯の健康の維持促進が目的となっていることも多く、このような場合には一般的な治療と変わりがないという側面もあります。

1-2 治療の緊急性は低い

 審美目的での歯科治療は、盲腸の手術等の一般的な治療行為と比較して、医学的必要性という観点からは緊急性が低いという特徴があるといえます。

2 審美目的での歯科治療を行う際の注意点

 審美目的での歯科治療は、上記のような特徴があるため、一般的な治療に加え、以下の点に注意する必要があるといえます。

2-1 説明の程度

 上記のとおり、審美目的での歯科治療は一般的な治療行為と比較して緊急性が低いとされているため、治療する前に行う治療の方法・効果・副作用の有無、費用等の説明は、一般的な治療行為よりも丁寧かつ慎重なものが求められると考えられています。
 具体的な説明の範囲や同意の取り方については患者様への説明と同意②~自由診療の場合の記事や矯正治療を行う際の留意点の記事で説明しておりますので、併せて参照してもらえればと思います。

2-2 医学的に不相当な要望を言われた場合

 患者様が審美的観点を意識するあまり、医学的に不相当な要望を言われた場合、先生方としては、どのように対応すべきか迷われると思います。
 そのような場合には、審美的歯科治療であっても医療行為であるため、医学的に相当な範囲で、出来る限り患者様の要望に沿うように審美的歯科治療を行えば債務不履行ということにはならないと考えられています。
 そのため、先生方としては、患者様の要望に沿うように可能な限り努力をするが、医学的に相当な範囲でしか治療をできない旨を患者様に伝えて、納得いただくように説明する等の対応をする必要があるといえます。

2-3 審美的歯科治療でやってはいけないこと

 また、当然のことではありますが、歯科医師の行うことのできる治療範囲は歯に関する部分の治療ですので、「医業」に該当するような口元や頬等への審美的治療行為を行うことはできません。
 歯科医師が「医業」を行ってしまった場合、医師法17条違反として3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、あるいはそれらの刑を併科されてしまいます(医師法31条1項1号)。また、歯科医業の停止や免許取消しの対象にもなります(歯科医師法4条3号、7条2項)。
 上記のとおり法律で定められている条項があるため、患者様から要望があったとしても、受けないようにしてください。

3 まとめ

 ホワイトニングや歯列矯正をはじめとする歯の美しさに対しての患者様の関心は高く、これからも審美的歯科治療は増えていくことが予想されます。
 審美的歯科治療の特徴をしっかりとつかんだうえで、リスクを未然に防ぐための対応を行ってください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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