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歯科医院内で盗難が発生した場合に医院は責任を問われるか?

 歯科医院を経営している先生方にとって、院内でトラブルが生じることは日常茶飯事であり、その度にトラブルの解決に苦慮しているのではないかと思います。
 今回は、そういったトラブル事例の中の一つである、院内で患者様の荷物が盗難に遭ったような場合に、院内を管理する歯科医師に責任が生じることがあるのかという疑問にお答えするとともに、責任を問われないようにする対策を説明いたします。

1 歯科院内で盗難が発生した場合に医院が責任を問われるか

 もちろん、このようなことは起こらないことが一番ですが、起こってしまった場合にどうなるのかという点も重要ですので、そちらから見ていきましょう。

1-1 基本的に医院が責任を負うことはない

 商法には、旅店、飲食店、浴場その他の来集を目的とする場屋の主人は、客から委託を受けた物品の滅失・毀損につき、原則として責任を負い、委託を受けていなくとも、主人又はその使用人の不注意によって物品を滅失・毀損したときは責任を負うという規定があり、しかもその責任は客の携帯品について責任を負わない旨告示した場合でも免れないとされています(商法594条)。
 この点、歯科医院も患者様が(治療のために)来ることを目的としていることからすれば、「場屋の主人」に当たり、商法594条の適用があるとも思えますが、結論からいうと、先生方はこの責任を負いません。商法は「営利」を目的とする行為を行う者を対象とする法律であるところ、先生方の行う医療行為は原則として「非営利」であるとされているため、商法の適用はないと一般的には考えられているからです。
 そして、この規定以外に特別な規定はないため、院内で盗難が発生した場合でも、基本的には患者様の自己責任ということになり、先生方が責任を負うことはありません。

1-2 例外的に医院が責任を負う可能性がある場合

 もっとも、歯科医院として通常有していなければならない設備等の不備が原因となって盗難が発生したとか、医院側が荷物を預かっていた際に盗難が発生したというような場合には、例外的に歯科医院を管理する者の責任が問われることも考えられます。そのため、歯科医院を経営する先生方としては、責任を未然に防ぐ対策をとっておく必要があります。
 なお、あってはならないことですが、従業員が盗難をしてしまったというような場合には、先生方が使用者責任(民法715条)として患者様に対して損害賠償責任を負います。そのようなことが万が一起きてしまった場合には、風評被害を防ぐためにも、専門家に相談することも含め、速やかに対応すべきです。

2 責任を未然に防ぐための対策

 次に事前対策について、見ていきます。

2-1 患者様の荷物を預からない

 まず、患者様の荷物を医院側で預かってしまうと、その後に盗難が発生した場合に委託物を管理する者として責任を負うことになりかねないため、原則として、患者様から預かってほしいと頼まれた場合でも、預かるべきではありません。
 医院としては、治療室にかごを置き、診療中は患者様の荷物を入れてもらうようにする等、患者様が荷物を管理し、医院側が管理していないような状況にする工夫が必要です。
 なお、院内に鍵付きのロッカーを設置して、ロッカー内に荷物を閉まってもらう方法も考えられますが、鍵が壊れていたりした場合や解錠されてしまった場合に、ロッカーを設置した医院側に責任が生じる可能性があるため、ロッカーを設置するのであれば、そのようなリスクを防ぐために、従業員が管理できる場所に設置すべきでしょう。

2-2 院内に注意を掲示する

 また、以下のような掲示を待合室の見やすいところに貼り、医院側が荷物を管理する責任を負わないことを明示し、患者様に荷物の管理につき注意を促すことも重要です。

 当院では、患者様の荷物の盗難・紛失については、一切の責任を負いません。貴重品の持込みはなるべく控え、お荷物は患者様ご自身で管理し、常に携帯しておいてください。

2-3 盗難の起こらないような体制にしておく

 さらに、従業員に対し、荷物の置忘れには常に注意しておくよう日ごろから教育しておくことや、院内に先生方又は従業員の目の行き届かない場所(死角)を作らないようにして、盗難の発生しにくい環境にしておくことも重要です
 患者様からあらぬ疑いをかけられないようにするために、防犯カメラを設置するという方法も考えられます。歯科医院の規模などにもよるところですが、カメラの設置や動画の管理にはお金がかかりますし、現時点ではそこまでの対策をしている医院も少ないといえますので、絶対にしなければならないわけではないでしょう。

3 まとめ

  以上まとめると、

  1. ・ 院内で盗難が発生したとしても、原則として患者の自己責任であり、医院側の責任とはならないが、例外的に医院側が責任を負う場合がある
  2. ・ 患者様の荷物を預かると、その後に盗難が発生した場合には医院側の責任となる可能性があるため、頼まれても預からない
  3. ・ 院内掲示や従業員教育などにより、盗難が起こりにくい環境を整えるべきである

 ということになります。
 それでも盗難が発生してしまった場合には、速やかに警察に通報し、警察官の指示を仰ぎましょう。内部で処理しようとすることはその後の捜査に支障をきたす可能性があるため、避けてください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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