医道審議会の流れと対応

歯科医師の免許取消しや歯科医業停止は、医道審議会の答申を踏まえ、厚生労働大臣が行います。

平成31年1月に開催された医道審議会では、歯科医師7名に対する行政処分の答申を行っており、その内訳は以下のとおりです。

  1. ・医業停止3月:4件(内訳:電磁的公正証書原本不実記載・同供用2件、診療報酬不正請求2件)
  2. ・戒告:3件(内訳:傷害1件、暴行・脅迫1件、過失運転致傷・道路交通法違反1件)

交通事故等を起こしてしまい、行政処分を控えている先生方は、医道審議会について知っておく必要があります。

今回は、医道審議会の流れと対応について説明いたします。

1 歯科医師に対する行政処分の概要

医道審議会は、歯科医師に対して行政処分を行う際に開かれるものです。
以下では、歯科医師に対する行政処分の概要を説明します。

1-1 歯科医師に対する行政処分の種類

歯科医師に対する行政処分には、以下の種類があります(歯科医師法第7条2項)。

  1. ①戒告
  2. ②3年以内の歯科医業の停止
  3. ③免許の取消し

③免許の取消しが最も重く、①戒告が最も軽い行政処分となります。

1-2 行政処分の理由

上記の行政処分は、歯科医師が以下の事由に該当した場合に行われることになっています(歯科医師法第3条、第4条、第7条1項、2項)。

  1. ①未成年者、成年被後見人又は被保佐人(行政処分の種類は免許の取消しのみ)
  2. ②心身の障害により歯科医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
  3. ③麻薬、大麻又はあへんの中毒者
  4. ④罰金以上の刑に処せられた者
  5. ⑤④に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者
  6. ⑥歯科医師としての品位を損するような行為のあったとき

罰金以上の刑に処せられた場合には行政処分が行われるため、たとえば交通事故で罰金以上の処分となった場合でも、処分が行われることになります。

1-3 行政処分と医道審議会の関係

上記行政処分は、厚生労働大臣が行うものですが、処分をするにあたっては、あらかじめ医道審議会の意見を聴かなければならないとしています(歯科医師法第7条4項)。

医道審議会は、「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」において、歯科医師に対する行政処分の意見を決定するうえでの考え方を示しています。

「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」では、事案類型ごとに行政処分の考え方を示されていますが、基本的には、歯科医師として求められる品位や適格性、事案の重大性、国民に与える影響等を勘案して審議していくこととなります。

1-4 事案別の行政処分の考え方

厚生労働省の示す「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」では、事案別に行政処分の考え方を示しています。
簡単にまとめると、以下のとおりとなります。

違反類型 行政処分の基本的考え方
①医師法、歯科医師法違反(ex 無資格医業・無資格歯科医業の共犯、無診察治療等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定。歯科医師自らが違反する行為は重い処分とする。
②保健師助産師看護師法その他の身分法違反(ex 無資格者の関係業務の共犯等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定。歯科医師自らが違反する行為は重い処分とする。
③医療法違反(ex 無許可開設の共犯等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定。歯科医師自らが違反する行為は重い処分とする。
④薬事法違反(ex 医薬品の無許可販売又はその共犯等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定。歯科医師自らが違反する行為は重い処分とする。
⑤麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反(ex 麻薬、向精神薬、覚せい剤及び大麻の不法譲渡、不法譲受、不法所持、自己施用等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定。歯科医師自らが違反する行為は重い処分とする。
⑥再生医療等の安全性の確保等に関する法律違反(再生医療等提供計画を提出しないで再生医療等の提供を行った場合等) 事案の悪質性や注意義務の程度等を考慮して判断。
⑦殺人及び傷害(ex 殺人、殺人未遂、傷害(致死)、暴行等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、殺人、傷害致死といった悪質な事案は当然に重い処分。
その他の暴行、傷害等は、歯科医師としての立場や知識を利用した事案かどうか、犯罪に及んだ情状等を考慮して決定。
⑧-1業務上過失致死傷(交通事犯)(ex 業務上過失致死、業務上過失傷害、道路交通法違反等) 自動車等による業務上過失致死傷については、基本的には戒告の取扱い。ひき逃げ等の悪質な事案については重めの処分とする。
⑧-2業務上過失致死傷(医療過誤)(ex 業務上過失致死、業務上過失傷害等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失については重めの処分。処分に当たっては、管理体制、医療体制、他の医療従事者の注意義務の程度や生涯学習に努めていたか等を考慮する。
⑨猥せつ行為(ex 強制猥せつ、売春防止法違反、児童福祉法違反、青少年育成条例違反等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、歯科医師としての立場や知識を利用した事案については重い処分とする。
⑩贈収賄(ex 収賄罪、贈賄罪等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、歯科医師としての立場や知識を利用した悪質な事案については重めの処分とする。
⑪詐欺・窃盗(ex 詐欺罪、詐欺幇助、同行使罪等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、歯科医師としての立場や知識を利用した業務に関連する犯罪(虚偽の診断書を作成・交付するなどの方法による詐欺)については重い処分とする。
⑫文書偽造(ex 虚偽診断書作成、同行使、虚偽有印公文書偽造等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、虚偽の診断書を作成・交付した場合など歯科医師としての立場や知識を利用した悪質な事案については重めの処分とする。
⑬税法違反(ex 所得税法違反、法人税法違反、相続税法違反等) 基本的には司法処分の量刑などを参考に決定するが、診療収入にかかる脱税など歯科医業に係る事案は重めの処分とする。
⑭診療報酬の不正請求等(ex 診療報酬不正請求、検査拒否(保険医等登録取消)) 診療報酬の不正請求により保険医の取消を受けた事案については、不正の額の多寡に関わらず、一定の処分とする。検査拒否により保険医の取消を受けた事案については、より重い処分とする。
⑮各指定医の指定取消処分等の処分理由となった場合(ex 精神保健指定医、難病患者医療法に基づく指定医、児童福祉法に基づく指定医等) 事案の悪質性や注意義務の程度等を考慮して判断。

2 医道審議会の流れ

医道審議会の流れは概ね以下の図のとおりとなります。

医道審議会の流れ

このうち、青枠で囲った「行政処分対象事案報告書の提出」及び「意見・弁明の聴取」の手続については、歯科医師側から行政に対して書面等を提出する手続であり、歯科医師側の主張を行政側に伝える機会となります。

3 医道審議会での対応

「意見・弁明の聴取」の手続では、処分に対する意見等を口頭で述べる以外に書面や証拠物を提出することができます。

そのため、この手続において、歯科医師側の主張を証拠ともに提出することが非常に重要となってきます。

4 まとめ

今回は、行政処分を決定する際に行われる医道審議会の流れについて説明しました。
行政処分の結果に不服がある場合には不服申立てを行うことになります。
不服申立ての手続及び流れについては追って紹介します。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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