勤務歯科医師を採用する場合の注意点とは?
歯科医院を運営する先生方は、勤務歯科医師を採用する際、どのような点に注意されているでしょうか。
歯科医師としての技量や経験が備わっているか否か、性格が歯科医院の雰囲気に合うかどうかといった点はもちろんですが、法的にも注意すべき点があります。
今回は、勤務歯科医師を採用する際の注意点について説明しています。
1 歯科医師資格の確認
まず、勤務歯科医師を採用する際には、歯科医師の資格があるか否かを確認する必要があります。
「そんなこと当たり前では?」「歯科医師で応募をしているのだから歯科医師資格のない者は応募してくるはずがない」と思われる先生方もいらっしゃるとは思います。
しかし近年、無資格者による医業・歯科医業が社会問題となっており、厚生労働省も注意喚起をしていますので(平24.9.24医政歯発0924第2)、採用する先生方においても注意すべき事項といえます。
なぜなら、歯科医師でない者による歯科医業は歯科医師法第17条によって禁止されており、これに違反した者は3年以下の懲役、100万円以下の罰金(併科もあります)に課せられ、開設者の先生方も刑事責任や行政処分を問われる可能性があるからです。
そのため、先生方としては、歯科医師の採用を行う際、歯科医師からの自己申告だけでなく、卒業証書及び免許証の原本提示を求め、資格の確認を行うべきといえます。
また、厚生労働省のホームページにおいて、歯科医師免許の資格確認検索システムの提供を行っておりますので、履歴書の提出の際に免許証の写しの提出を求め、登録の有無を確認するということも行うべきといえます。
2 契約書締結の際の注意点
勤務歯科医師を採用することが決まった場合には、勤務歯科医師と締結する契約書を作成する必要があります。
契約書を作成していない歯科医院もあるかとは思いますが、労働条件を明示のうえ合意しておかないと、後でトラブルとなった場合に歯科医院側に不利に働く可能性がありますので、契約書の締結はしっかりとしておくべきです。
以下では、契約書締結の際に注意すべき点を説明します。
2-1 契約の種類の決定~雇用か業務委託か~
まず、勤務歯科医師を雇用契約で雇うか、業務委託契約で業務してもらうかを決定する必要があります。
雇用であれば、歯科医院の指揮命令のもと、歯科医院の方針に沿ったかたちで勤務歯科医師に働いてもらうことができる一方、残業規制・解雇制限などの労働法上の規制や保険加入義務の関係でリスクや負担を負います。
他方、業務委託であれば、労働法上の規制や保険加入義務はない一方で、業務時間等に関しては勤務歯科医師にある程度自由を与える必要があります。
このように、雇用にするか業務委託にするかによって、勤務歯科医師の業務形態は変わってくるので注意してください。
なお、業務委託契約を締結している場合であっても、実質的に雇用と判断された場合には労働法上の規制等が及ぶことになりますので、契約を締結する際には、業務実態に合った契約の種類を選択する必要があります。
雇用と業務委託の違いについては、以下の記事もあわせてチェックしてみてください。
2-2 退職の際の契約条項
契約の種類を雇用とする場合でも、業務委託とする場合でも、契約の終了時期については注意して定めておく必要があります。
なぜなら、勤務歯科医師から急遽退職したいと申し出られた場合、契約条項に事前申し出等の条項が定められていないと、雇用であれば2週間、業務委託であれば即座(ただし、歯科医院に不利になる時期の申し出の場合には勤務歯科医師が損害賠償義務を負います)に契約を解除することができてしまうからです。
多くの歯科医院においては、患者さまの引継ぎや後任の歯科医師を探す場合、上記期間では不十分といえるでしょう。
事前申し出の期間として、あまりに長すぎるものは無効ですが、歯科医師の先生方の場合には、患者さまの治療の関係や人員の問題がありますので、3か月前や6か月前に申し出るという条項にしても不合理とまではいえないと考えられます。
2-3 秘密保持条項・競業避止条項
歯科医院は、患者さまの個人情報を取り扱いますので、情報の管理は徹底しておかなければなりません。
勤務歯科医師の行う情報管理についても、歯科医院の勤務医に対する管理義務が問われますので、秘密保持の条項を契約に設けておくべきといえます。
また、勤務歯科医師が患者さまを引き抜くといった事態も考えられなくはないため、「退職後1年間は半径3キロメートル以内での競業を禁止する」といった競業避止義務に関する条項を設けることも検討すべきといえます。
勤務歯科医師の引抜対策については、以下の記事もあわせてチェックしてみてください。
3 まとめ
人材の採用は人材投資ともいえ、働き手が少なくなってきている昨今においては、非常に重要視されてきています。
投資に失敗しないようにするために注意を払うのと同様に、勤務医の採用においても注意を怠らず、失敗のない採用を行っていただければと思います。
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