歯科医が知っておくべき診療報酬請求等に関する指導・監査の手続き
保健医療機関の指定を受けている歯科医院や保険医登録をしている歯科医師にとって、診療報酬請求に関する行政指導(以下「指導」といいます)は、指導の結果やその後の手続(監査)によっては保険医登録取消しなどの重大処分につながるおそれがあるため、日ごろから注意しておかなければならない問題といえます。
もっとも、患者様の診察で日々お忙しい先生方にとって、指導の仕組みや流れを一から調べるのは骨の折れる作業だと思います。
そこで、今回は、そのような骨の折れる作業をしないで済むように、指導及び監査の手続きの概要について説明します。
目次
1 指導
まず、指導の概要について説明します。
1-1 指導の種類
指導には、以下の3種類があります。
- ①集団指導
- ②集団的個別指導
- ③個別指導
個別指導はさらに、地方厚生局及び都道府県が主導する③-a都道府県個別指導、厚生労働省が主導する③-b1共同指導、③-b2特定共同指導に分類されます。
それぞれの選定基準は、厚生労働省保険局長通知「保健医療機関等及び保険医等の指導及び監督について」(平7・12・22保発117)別添「指導大綱」「監査要綱」「指導大綱関係実施要領」「監査要綱関係実施要領」に記載されているので、参照してみてください。
そのうち、③個別指導は、診療報酬請求に疑義のある可能性が高いと思われている段階での手続となります。
なお、新規に保険医療機関又は保険医に指定された場合、集団指導の対象になるほか、新規指定から概ね6か月~1年以内に新規個別指導が実施されます。新規個別指導は、上の個別指導とは異なり、診療報酬請求に疑義をもたれているというわけではありません。
1-2 指導の件数
厚生労働省の発表によると、歯科における平成28年度の集団的個別指導は4920件、個別指導は3303件(保険医療機関等1324件、保険医等1979人)、新規個別指導は3212件(保険医療機関等1599件、保険医等1613人)となっており、集団的個別指導や個別指導の件数が決して少ないとはいえないことが分かると思います。
2 指導の流れ
次は、指導の流れについて説明していきます。
2-1 概要
指導の流れとしては、以下のようになっています。
(指導の日時、場所、出席者等が書面により通知、集団的個別指導及び個別指導の場合は準備すべき書類等についても指定あり)
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2-2 指導の通知
指導実施通知は、通常、実施の数週間前に送付されますが、集団的個別指導や個別指導の場合、指導直前になってから対象となる診療録が通知されることもあります。
なお、指導を拒絶すると監査の対象になる可能性があるため、直前に通知が来た場合でも拒絶するのではなく、日程の再調整も含めて、基本的には可能な限り応じた方が良いでしょう。
2-3 指導の実施方法
集団指導は、一定の場所に集めての講習等の方式により行われます。集団的個別指導や個別指導は、特定の患者様の診療報酬明細書等に基づき、指導官との個別面談方式により行われます。
個別面談方式は、指導官等の4~6人くらいを相手に着座し、指導官からの質問に答えるかたちで進行していくのが通常です。時間としては2時間程度かかることが多いと思います。
厚生労働大臣は、行政指導に当たり必要と認めたときは、学識経験者その他の関係団体の指定により立会いを求めることができるとされており(国民健康保険法73条2項、国民健康保険法41条2項等)、通常は個別面談の場に都道府県医師会の理事等が立ち会います。
2-4 指導の結果通知
集団的個別指導終了後は、指導の結果が口頭で通知されます。集団的個別指導において適正を欠くと認められた場合、約1年以内に都道府県個別指導が行われます。
個別指導後は、指導の結果が口頭で通知されるほか、指導から1か月~数か月後に、指導結果に応じて以下のような措置が文書で通知されます。経過観察や再指導となった場合には個別指導を再度実施し、要監査となった場合には次の監査に移行します。
- a概ね妥当:概ね妥当適切である場合。
- b経過観察:適正を欠く部分が認められるものの、その程度が軽微で、診療担当者等の理解も得られており、かつ、改善が期待できる場合。経過観察の結果、改善が認められない場合には再指導となる。
- c再指導:適正を欠く部分が認められ、再指導を行わなければ改善状況が判断できない場合。不正や不当が疑われ、患者から受療状況等の聴取が必要と考えられる場合は、速やかに患者調査を行い、当該調査結果を基に再指導を行う。不正又は著しい不当が明らかとなった場合は、再指導を行うことなく監査を行う。
- d要監査:指導の結果、監査要綱に定める監査要件に該当すると判断した場合。
3 監査
最後に、監査について説明します。
3-1 監査の行われる条件
監査は、以下の場合に行われます。
- ①診療内容に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
- ②診療報酬の請求に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
- ③度重なる個別指導によっても診療内容又は診療報酬の請求に改善がみられないとき
- ④正当な理由なく個別指導を拒否したとき
3-2 監査の流れ
監査は、それに先立ち診療報酬明細書の書面調査が行われるとともに、必要に応じて患者様等に対する実地調査も行われます。
実施の流れや方法は指導の場合とほぼ同様です。
3-3 監査後の流れ
監査後は不正・不当の度合いに応じて、①保健医療機関の指定又は保険医登録の取消し、②戒告、③注意のいずれかがなされます(健康保険法80条、81条)。
①保険医療機関の指定又は保険医登録の取消しがなされると、厚生労働大臣は以後5年間、再指定・再登録を拒むことができるとされており(健康保険法65条3項1号、71条2項1号)、実際には5年間を経過しない限り再指定・再登録がなされることはほとんどないため、その後の業務に与える影響は極めて大きいといえます。
同処分に対する不服申立ての制度もありますが、要件が厳格であり、認められる例も限られているため、監査になる前の指導の段階で指摘事項に法的な根拠があれば、是正する必要があるといえるでしょう。
4 まとめ
以上の指導・監査の流れをまとめると、概要以下のとおりとなります。
新規指定以外の先生方については、指導・監査の対象とならないことが一番かと思いますが、このような制度がある以上、制度の構造をしっかりと押さえて、万が一指導の通知が来た場合に、何も分からないというような状況にならないようにしていただければと思います。指導・監査でお困りのことがあれば、ご相談ください。
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