採用の際に試用期間を設けることの意味と注意点
従業員を採用する際、試用期間を設けている場合もあるかと思いますが、その意味を正しく理解されていますか?
試用期間を単なるお試し期間と捉え、いつでも自由に解雇できると誤解されている先生方もいらっしゃいますが、それは間違いです。
試用期間の理解や運用を間違えると、後に法的問題に発展する可能性もあります。
今回は、採用の際に試用期間を設けることの意味と注意点について説明いたします。
目次
1 試用期間の法的位置づけ
試用期間とは、働く人(労働者)の適性を評価、判断するために設ける期間をいいます。
つまり、当該歯科医院で勤務する者として向いているのかどうかを評価・判断するための期間です。
試用期間中の雇用契約は、法的には、「適性がないと判断した場合には本採用を拒否することができる解約権を留保した雇用契約」と解されています。
2 試用期間中の給与と本採用後の給与を変えることはできる?
試用期間中の給与に関する法律上の規定はないため、試用期間中の給与を本採用後の給与よりも低くすることも可能です。
たとえば、労働条件に、「試用期間中は、本採用後の給与の80パーセントとする」旨定めて、労働者がこれに同意していれば、同規定に基づいて給与を支給しても問題ありません。
もっとも、試用期間中の給与にも最低賃金は適用されますので、80パーセントにした結果が最低賃金を下回らないようにする必要はあります。
3 試用期間はどのくらい設けることができる?
試用期間が長いほど、従業員の適性を評価、判断できる期間が長くなるので、先生方としてはできる限り試用期間を長くしたいとお考えになるかもしれません。
しかし、試用期間は、労働者にとっては「解約権留保付き」という不安定な立場に置かれることになるので、あまりにも長すぎると無効と判断される可能性があります。
そのため、試用期間は、「合理的な範囲」で定める必要があるといえます。
一般的には、1か月から6か月の間で定めていることが多い印象です。
4 試用期間の延長は可能?
試用期間中に従業員の適性に疑義が生じて、本採用までもう少し様子をみたいと思われることもあるのではないでしょうか。
従業員本人が納得すれば問題ありませんが、納得していない場合には、以下の事由に該当することで、試用期間の延長を認めることができます。
- ①就業規則等に試用期間の延長についての規定がある。
- ②従業員の勤務状況等に応じて、試用期間を延長する合理的な必要性がある。
この場合でも、試用期間の延長は「合理的な期間内」で定める必要があることに注意してください。
5 試用期間中の解雇は自由にできる?
「試用期間はお試しの期間だから、気に入らなければ解雇も自由に行える」という意見を聞くこともありますが、それは間違いです。
上述のように、試用期間の法的性質は「解約権留保付きの雇用契約」であり、「雇用契約」であることに変わりはないので、解雇するためには客観的に合理的な理由が必要ですし、解雇が社会通念上相当と判断される場合でなければいけません。
上記合理的な理由は、本採用後における解雇の場合よりも広いと解されていますが、実際には、以下のような事由が必要となります。
- ・本採用前の暴力事件への関与の発覚
- ・欠勤・遅刻などの勤務不良が多く、改善の可能性がないと認められること
- ・重大な経歴詐称
これらを勘違いして、「合わない」といった理由だけで本採用を拒否(本採用拒否も解雇の一種と考えられます)してしまうと、その解雇が無効であるとして、無効と判断されるまでの給与相当額や慰謝料等を請求される可能性があります。
6 まとめ
今回は、試用期間を設けることの意味と注意点について解説しました。
まとめると、以下のとおりとなります。
- ・試用期間は、「解約権を留保した雇用契約」である。
- ・試用期間中の給与と本採用後の給与の金額を区別することも可能
- ・一定の場合、試用期間を延長することもできる。
- ・本採用の拒否や試用期間中の解雇にも合理的な理由が必要。
試用期間の意味を正しく理解し、労働問題が生じないような運用にしてください。
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