医療施設賠償責任保険とは?~歯科医師賠償責任保険の要点②~

 以前、歯科医師賠償責任保険の概要について解説しましたが、概要を簡略化して説明する関係上、個別の条項に関する解説は省いて説明していました。
 保険は約款というルールに基づいて運用されていますが、約款は複雑で、かつ専門的な用語が多数用いられているため、一読して内容を理解するだけでも時間がかかります。
 そこで、今回は、歯科医師賠償責任保険のうち、医療施設賠償責任保険について、知っておくべき約款の内容と留意点を分かりやすく説明いたします。
 なお、下記は、歯科医院を運営する先生方がご加入されている一般的な医師賠償責任保険について説明していますが、詳細な規定は保険会社ごとに異なりますので、最終的には保険約款を確認してもらえればと思います。

1 歯科医師賠償責任保険と医療施設賠償責任保険の関係

 歯科医師賠償責任保険は、大きく分けて、次の2つの補償を備えています。

  1. ①医療過誤が原因の賠償責任に対する補償を備えた保険(医師賠償責任保険)
  2. ②施設の不備等が原因の賠償責任に対する補償を備えた保険(医療施設賠償責任保険)

 今回説明する医療施設賠償責任保険は、医療施設の設備不備等で患者様を遂行するにあたり職業上相当な注意を用いなかったことに起因して医療行為の対象者の身体の障害が発生した場合(例:歯科医院のシャッターが落下して患者様が怪我をされた場合)に、その損害に対して保険金を支払う保険です。
 約款では、以下のいずれかの事由に起因する事故によって生じた損害を填補するものとされています。

  1. ①被保険者が所有、使用または管理する保険証券記載の施設
  2. ②医療施設の用法に伴う保険証券記載の仕事の遂行またはその結果
  3. ③被保険者の占有を離れた飲食物その他の保険証券記載の財物

2 医療施設賠償責任保険の内容及び留意点

 医療施設賠償責任保険には、普通保険約款が適用されますが、その特性により、追加で特別の約款が加えられています。追加の約款には、通常の保険にはない注意すべき事項も記載されているので、以下では、追加されている約款について説明します。

2-1 保険金を支払わない場合

 ある一定の事項(免責事項)が原因となって発生した事故については、保険金が支払われません。
 医療施設賠償責任保険は、普通約款に記載されている免責事項に加え、以下の免責事項が追加されています。

  1. ①被保険者またはその使用人その他被保険者の業務の補助者による医療業務の遂行に起因してその医療行為の対象となる者が被った身体の障害
  2. ②建物外部から内部への雨、雪、ひょう、みぞれまたはあられの浸入または吹込み
  3. ③医療施設の修理、改造または取壊し等の工事
  4. ④次に掲げるものの所有、使用または管理
    ア 自動車、原動機付自転車または航空機
    イ 医療施設外における船・車両(原動力がもっぱら人力である場合を除きます。)または動物
  5. ⑤昇降機の所有、使用または管理についての被保険者の故意または重大な過失による法令違反
  6. ⑥被保険者が故意または重大な過失により法令に違反して製造し、販売し、もしくは提供した生産物または行った仕事の結果
  7. ⑦次の財物の損壊またはその使用不能(財物の一部の瑕疵によるその財物の他の部分の損壊またはその使用不能を含みます。)
    ア 生産物
    イ 仕事の目的物のうち、事故の原因となった作業が加えられた財物(作業が加えられるべきであった場合を含みます。)

 上記のように、免責事項は多岐にわたっており、医療施設内での設備等を原因とした偶発的な事故以外は医療施設賠償責任保険の対象外ということで、厳格に線引きがなされているといえます。
 特に、漏水に関して、建物外部から内部への雨等を原因とする漏水事故は、当該保険による保険金の対象外となりますので、注意が必要といえます。

2-2 免責事項の適用除外

 医療施設賠償責任保険の場合、歯科医院の昇降機に積載した他人の財物に損害が生じた場合は、免責事項に含まれず、他の免責事項に該当しない限り、保険金支払の対象に含まれます。

3 人格権侵害補償の内容及び留意点

 医療施設賠償責任保険には、人格権侵害に関する補償が含まれているものもあるため、以下で説明します。

3-1 保険金を支払う場合

 医療施設賠償責任保険に人格権侵害に関する補償が含まれている場合、対象となるものは、医療施設賠償責任保険における支払の対象となる事故に関し、人格権(名誉、プライバシー権)の侵害があった場合における損害(例:歯科医院付近にいた患者様の家族を不審人物と勘違いし、公衆の前で取り押さえてしまった場合に、当該患者様の家族が歯科医院に対して請求することができる慰謝料)となります。
 他人の人格権侵害につき補償がなされるのであり、保険に加入されている先生方の人格権侵害を補償してもらうものではありません。

3-2 保険金を支払わない場合

 人格権侵害に関する補償は、普通約款に記載されている免責事項に加え、以下の事由に起因する損害については免責される旨の条項が追加されています。

  1. ①医療行為
  2. ②最初の行為が保険期間の初日の前に行われ、その継続または反復として行われた行為
  3. ③事実と異なることを知りながら、被保険者によって、または被保険者の指図により行われた不当行為
  4. ④被保険者によって、または被保険者の了解もしくは同意に基づいて行われた犯罪行為(過失犯を除きます。)
  5. ⑤被保険者による採用、雇用または解雇に関して行われた不当行為
  6. ⑥広告・宣伝活動、放送活動または出版活動

4 まとめ

 医療施設賠償責任保険は、医師賠償責任保険と比べれば、利用する頻度も多くないという印象ですが、事故はいつ起こるか分かりませんので、保険が適用されるか否かを事前に知っておくことは重要といえます。上記が先生方の歯科医院運営において参考になれば幸いです。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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