水漏れ事故が起きた場合の保険対応

 歯科医院の業務は、洗浄器具など水を使用する設備が多く、それに伴って配管等の設備が複雑になることから、配管トラブル等による漏水事故が発生する可能性も高いといえます。
 このリスクヘッジとして、漏水事故が生じた際の損害を填補する保険に加入されている先生方も多いと聞きます。もっとも、保険も万能ではないので、万が一漏水事故が発生した場合に保険でどこまで補償されるか等は知っておいた方が良いといえます。
 そこで、今回は、水漏れ事故が起きた場合の保険対応について説明いたします。

1 漏水事故の危険性

 歯科医院の業務は、水を扱うことが多く、配管トラブル等による漏水事故が発生する可能性も高いといえます。
 漏水事故が発生した場合、配管設置に業者のミス(瑕疵)があれば、当該業者に責任を負わせるということも考えられますが、配管の老朽化による事故や業者のミスとまでは特定できない事故も多く、そのような場合には誰にも責任を負わせることができません。
 また、漏水によって第三者に損害を与えてしまった場合にその損害も賠償する必要があることや、漏水箇所を特定するには壁の中や床下を調べる必要があることから、漏水事故が発生した場合に、損害額が予想以上に大きくなることも少なくありません。
 そこで、上記リスクをヘッジする一般的な方法として、施設賠償責任保険(又は歯科医師賠償責任保険)に基づく保険請求が挙げられます。

2 施設賠償責任保険とは

 施設賠償責任保険は、一般に、以下の事故によって生じた損害を填補する保険です。

  1. ①保険契約者が所有、使用又は管理する施設の構造上の欠陥や管理の不備による事故
  2. ②施設の用法に伴う仕事の遂行に関し生じた事故

 保険金は、保険会社との契約により、約款に記載された保険金支払の対象となる事故に対して保険金の範囲内で支払われるものですので、保険に加入する際には、保険金支払の対象・範囲、免責金額及び保険金支払の限度額等を確認しておく必要があります。
 特に、施設賠償責任保険では給排水管の不備等による漏水事故の損害は特約を付けなければ保険金支払の対象とはならない場合も多いので、特約を付けることを含め、検討する必要があります。

3 施設賠償責任保険で填補される損害は?

 上記のとおり、保険金支払の対象は保険会社によって若干異なりますが、一般的に、施設賠償責任保険においてカバー(填補)される損害の項目として、以下が挙げられます。

  1. ①物的損害を被った被害者に対して支払った適正な損害賠償金
  2. ②身体的損害を被った被害者に対して支払った適正な治療費、慰謝料あるいは休業損害等
  3. ③紛争解決のための訴訟や和解等に要した弁護士費用

 ここで注意が必要なのが、上記損害が発生した場合に全てに対して保険金が支払われるというものではなく、保険会社が調査のうえ適正と判断した範囲でしか保険金は支払われないということです。
 この点を意識せず、被害者や修理業者に全てを支払う旨の約束をしてしまうと、保険金が想定どおりに支払われない場合に紛争に発展してしまう可能性があるので、十分注意してください。

4 施設賠償責任保険で填補されない損害は?

 他方、施設賠償責任保険においてカバー(填補)されない損害の項目として、一般的に以下が挙げられます。これらも保険会社によって若干異なりますので、填補されない損害の範囲について保険加入前に確認する必要があります。

  1. ①火災事故の際の紛失や盗難による損害
  2. ②施設の改築・修理等の工事によって生じた損害
  3. ③地震や津波などの天災そのものによる損害
  4. ④天災による火災を原因とする損害
  5. ⑤保険契約者や被保険者、保険金受取人の故意又は重過失により生じた損害
  6. ⑥重過失による法令違反によって生じた損害
  7. ⑦テロや暴動、戦争によって生じた損害

 また、保険が適用になったとしても、免責金額については加入者が負担しなければならないとされていますので、免責金額についても保険加入前に確認しておく必要があります。

5 漏水事故が発生した場合の対応は?

 では、漏水事故が発生した場合、どのように行動すべきでしょうか。
 まず、被害者がいる場合には、その方の安否及び損害を確認する必要があります。
 次に保険会社に事故の報告をします。事故の報告には、保険会社所定の書式を用いる必要があるので、提出書類の確認を含めて事故の報告をしてもらう必要があります。
 その後、修理業者等に依頼して、漏水箇所を特定のうえ、修理見積りを出してもらい、当該見積りを保険会社に提出し、保険金支払の審査をしてもらいます。
 審査がとおれば、保険金が支払われます。

6 まとめ

 備えあれば憂いなしと言いますが、保険契約はその典型と言えます。
 もっとも、保険契約も万能とはいえないので、加入の際には保険の範囲・対象、免責金額及び保険金の上限等を確認していただき、万が一の事故に備えてください。

The following two tabs change content below.
弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

関連記事

運営者

ページ上部へ戻る