医師賠償責任保険の内容及び留意点~歯科医師賠償責任保険の要点①~

 以前、歯科医師賠償責任保険の概要について解説しましたが、概要を簡略化して説明する関係上、個別の条項に関する解説は省いて説明していました。
 保険は約款というルールに基づいて運用されているため、歯科医院を運営する先生方にとって、約款の内容は知っておかなければならないものといえます。とはいえ、約款は複雑で、かつ専門的な用語が多数用いられているため、一読して内容を理解するだけでも時間がかかります。
 そこで、そのような時間を短縮できるよう、今回は、歯科医師賠償責任保険のうち、医師賠償責任保険について、知っておくべき約款の内容と留意点を分かりやすく説明いたします。

1 歯科医師賠償責任保険と医師賠償責任保険の関係

 歯科医師賠償責任保険は、大きく分けて、次の2つの補償を備えています。

  1. ①医療過誤が原因の賠償責任に対する補償を備えた保険(医師賠償責任保険)
  2. ②施設の不備等が原因の賠償責任に対する補償を備えた保険(医療施設賠償責任保険)

 今回説明する医師賠償保険は、被保険者またはその使用人その他被保険者の業務の補助者が日本国内において医療業務を遂行するにあたり職業上相当な注意を用いなかったことに起因して医療行為の対象者の身体の障害が発生した場合に、その損害に対して保険金を支払う保険です。
 簡単に言えば、医療過誤が原因で患者様に損害を与えてしまった場合にその損害を填補する保険となります。

2 医師賠償保険の内容及び留意点

 医師賠償保険には、普通保険約款が適用されますが、その特性により、追加で特別の約款が加えられています。追加の約款には、通常の保険にはない注意すべき事項も記載されているので、以下では、追加されている約款について説明します。

2-1 事故の発見

 医師賠償責任保険による保険金支払の対象となる事故は、保険金を支払っている期間内に「発見」された損害に関するものとなります。
 ここでいう「発見」とは、被保険者(歯科医師の先生方)が事故を最初に認識した時(認識し得た時を含みます)または被保険者に対して損害賠償請求が提起された時(提起されるおそれがあると被保険者が認識した時または認識し得た時を含みます)のいずれか早い時点をもってなされたものとみなされます。
 そして、事故が発見された場合には、被保険者は、事故の日時等を遅滞なく保険会社に書面により通知しなければならないとされています。 

2-2 保険金を支払わない場合

 ある一定の事項(免責事項)が原因となって発生した事故については、保険金が支払われません。
 医師賠償責任保険は、普通約款に記載されている免責事項に加え、以下の免責事項が追加されています。

  1. ①次のものの所有、使用または管理に起因する賠償責任
    ア 被保険者が業務を行う施設または設備
    イ 航空機、車両(原動力がもっぱら人力である場合を含みます。)、船舶または財物
  2. ②名誉棄損または秘密漏えいに起因する賠償責任
  3. ③美容を唯一の目的とする医療行為に起因する賠償責任
  4. ④医療の結果を保証することにより加重された賠償責任
  5. ⑤所定の免許を有しない者が遂行した医療行為に起因する賠償責任。ただし、所定の許可を有する臨床修練外国医師または臨床修練外国歯科医師が遂行した医療行為に起因する賠償責任を除きます。

 ①②については医療施設賠償責任保険や自動車保険における保険金支払の対象とされているため、医師賠償責任保険ではカバーする必要がないという意味で免責事項となっています。
 ③についても、美容医療については別途の保険があり、当該保険でカバーされるべき事項ということで免責事項とされています。最近では、審美目的での歯の治療も増えているので、当該治療による損害が医師賠償責任保険ではカバーされないことには注意が必要です。
 ④については、医療行為が結果を保証するものではない以上、それに反して結果を保証してしまった者は保護しないということで免責事項とされています。
 ⑤は、医療行為に医師免許が必要とされる関係上、無免許での医療行為が免責事項となっています。

2-3 勤務医個人の責任

 歯科医院を運営する先生方の加入する医師賠償責任保険には、勤務医個人が負う賠償責任は填補されず、先生方の勤務医に対する使用者責任に基づく賠償責任が填補の対象となります。
 具体的には、医師賠償責任保険により、歯科医院の賠償責任は填補されますが、患者様が勤務医個人のみに対して請求した場合には、当該保険を使用することはできないことになります。
 そのため、勤務医個人の賠償責任をも保険によってカバーしたいということであれば、勤務医賠償責任保険などの保険に別途加入する必要があります。

2-4 代位

 保険会社は、被保険者に保険金を支払った場合、保険金の範囲内で当該事故における被保険者が有する債権を代位取得するのが原則です(保険代位。保険法第25条1項)。
 もっとも、医師賠償責任保険においては、保険金を支払った場合にも、故意による事故の場合を除き、被保険者の使用人その他被保険者の業務の補助者に対して有する権利を代位取得することはありません。

3 まとめ

 今回のまとめとしては、以下のとおりとなります。

  1. ・医師賠償責任保険における保険金の対象は、保険加入期間内に「発見」された事故に基づく損害
  2. ・美容を唯一の目的とする医療行為に関する賠償責任、結果を保証することにより加重された賠償責任は医師賠償責任保険の対象外
  3. ・歯科医院の使用者責任は保険金支払の対象となるが、勤務医個人の賠償責任には対応していない

 上記は、歯科医院を運営する先生方がご加入されている一般的な医師賠償責任保険について説明していますが、詳細な規定は保険会社ごとに異なりますので、最終的には保険約款を確認してもらえればと思います。
 保険が適用されるか否かを事前に知っておくことで、「備えあれば患いなし」をより確実にすることができます。上記が参考になれば幸いです。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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