歯科医が知っておくべき有給休暇の考え方

 歯科医院を運営されている先生方は、スタッフの勤怠管理やシフトに気を使われていると思います。スタッフが有給休暇を使用することにより、考えていたシフトに穴が空いてしまうご経験もあるのではないでしょうか。
 そんなご経験のある先生方から、スタッフの有給休暇をコントロールしたいという相談もよく受けます。
 では、そのようなことはできるのでしょうか。今回は、有給休暇の考え方について説明いたします。

1 年次有給休暇の性質

 年次有給休暇は、労働者の請求によって生じるものではなく、労働者が6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤すれば、法律上当然に発生するものとされています(労働基準法第39条1項。最高裁昭和48年3月2日判決参照)。

1-1 継続勤務

 上記のいう継続勤務とは、勤務の実態に即して実質的に判断され、たとえば、短期労働契約の更新や定年退職者の嘱託としての再採用も実態からみて継続勤務となりうるとされています。
 なお、起算日は原則として労働者の採用日となっています。

1-2 全労働日の8割以上勤務

 上記のいう全労働日とは、労働者が労働契約上労働義務を課せられている日数をいい、実質的に見て労働義務のない日はこれに入らないとしています。つまり、労働日から就業規則その他によって定められた所定休日を除いた日をいいます。

1-3 有給休暇の付与日数

 有給休暇の日数は以下のとおりとなります。

歯科医が知っておくべき有給休暇の考え方

 休職などにより前年の出勤日が8割に満たなかった場合は、有給休暇は発生しませんが、その次の年で8割以上継続勤務した場合には、継続年数に従った休暇日数が与えられることになります。具体的には、6か月から1年6か月の間の1年間は8割に満たなかった場合には、1年6か月後に有給休暇は与えられませんが、1年6か月から2年6か月の間の1年間は8割以上勤務したという場合には、2年6か月後に12日間の有給休暇が与えられることになります。

2 時季変更権

 原則として、使用者は、労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければなりませんが、使用者側が有給休暇をコントロールする方法として、法は時季変更権を使用者に与えています(労働基準法第39条5項)。
 すなわち、労働者の有給休暇の申請に対し、使用者は請求された時季に当該労働者に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、時季を変更して他の時季に有給休暇を与えることができるとされています。
 変更する場合の時季については、事業の規模、年休請求権者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代替勤務者の配置の難易等諸般の事情を考慮して年休制度の趣旨に反しないよう合理的に決定すべきであるとされており、単なる業務繁忙や人員不足ではこれに該当しません。
 したがって、年休制度の趣旨に反するような時季変更の場合には、時季変更権を行使することが違法と判断されることもあるので注意が必要です。

3 時間単位の有給休暇

 労使で以下の事項を協定しておけば、時間単位で有給休暇を与えることも可能です(労働基準法第39条4項、同規則第24条の4)。

  1. ①時間単位年休の対象労働者の範囲
  2. ②時間単位年休の日数(年5日以内の範囲)
  3. ③時間単位として与えることができるとされる年休の1日の時間数
  4. ④1時間以外の時間を単位として年休を与える場合にはその時間数

4 パートタイム労働者に与えられる有給休暇

 上記は通常の労働者の有給休暇について説明していますが、パートタイム労働者にも有給休暇は発生します。
 出勤率は通常の労働者と同様ですが、1週間に30時間未満又は年216日以下の勤務であるパートタイム労働者には、所定労働日数に比例した日数の年次有給休暇が付与されることになります(労働基準法39条3項。上記条件を超えるものは、通常の労働者の有給休暇が付与されます)。
 その場合、年休の付与日数はそれぞれ以下のとおりとなります。

歯科医が知っておくべき有給休暇の考え方
歯科医が知っておくべき有給休暇の考え方

5 未消化の有給休暇

 上記によって与えられた有給休暇が年度内に消化されなかった場合、労働法第115条の消滅時効に従い、翌年度までは繰り越されると解釈されています。

6 まとめ

 有給休暇は法律上当然に与えられるものであり、従業員から有給休暇を申請された場合に歯科医院側でシフトをコントロールする際には、時季変更権の要件を満たす必要があります。時季変更権を行使できる場面かどうかを慎重に検討して、適切な労務管理を心掛けてください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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