歯科医院の閉鎖手続と留意点

 毎年約2000名の歯科医師国家試験合格者がいる中、歯科医院の新規開業も増えている一方、閉院も増えています。
 閉院の理由は様々であり、先生方のご決断は尊重すべきものといえます。もっとも、患者様との関係では、上手な終わらせ方をするということが重要となります。
 今回は、閉院の手続と留意点について説明いたします。

1 閉院の手続

 歯科医院を閉院する場合、以下に述べるような手続をとる必要があります。
 なお、各手続を一覧にまとめたものは1-8で表にしてありますので、整理の参考にしてみてください。

1―1 診療所廃止届

 歯科医院を閉鎖した場合には、その開設者は、閉院の日から10日以内に、都道府県知事宛の診療所廃止届を所轄の保健所に届け出る必要があります(医療法9条1項)。
 なお、診療用エックス線装置を設置している場合には、診療所廃止届と同時に診療用エックス線装置廃止届も保健所に提出する必要があります(医療法15条3項、規則24条12号、29条1項)。
 また、開設者の失踪又は死亡に伴い閉院する場合、死亡診断書又は除籍抄本等を提出する必要があります(医療法9条2項)。

1―2 保険医療機関となっている場合

 保険医療機関として登録している場合には、保険医療機関廃止届を診療所廃止届の控えとともに管轄の厚生局に提出する必要があります(保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する政令8条)。

1―3 生活保護法等による指定の医療機関となっている場合

 生活保護法による指定の医療機関となっていた場合及び労働者災害補償保険法に基づく保険医療機関の指定を受けていた場合、閉院の日から10日以内に、管轄の福祉事務所あるいは所轄の労働基準局に廃止届を提出する必要があります(生活保護法50条の2)。

1―4 適用事業所に該当しなくなった場合

 閉院により適用事業所に該当しなくなった場合、閉院の日から5日以内に、管轄の年金事務所に健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届を提出する必要があります(提出先:健康保険法施行規則20条、厚生年金法施行規則13条の2第1項、2項)。
 この手続きは、提出までの期間が短いので、特に注意が必要といえます。

1―5 歯科医師会を脱退する場合

 歯科医師会を脱退する場合、被保険者の資格は歯科医師会脱退の翌日に喪失するので、歯科医師国民健康保険組合被保険者資格喪失届を提出し、被保険者証を返納する必要があります。

1―6 労働保険関係

 閉院の日から10日以内に、雇用保険適用事業所廃止届を管轄の公共職業安定所に提出する必要があります(提出先:雇用保険法施行規則141条)。
 また、閉院の日から50日以内に、労働保険料の確定精算を行い、労働保険確定保険料申告書を所轄の労働基準監督署に提出し、保険料の精算を行う必要があります(労働保険の保険料の徴収等に関する法律19条1項)。

1―7 税務関係

 個人事業主の先生方は、廃業した日から1か月以内に、税務署に個人事業の開業・廃業等届出書を、都道府県税事務所に事業廃止届出書を提出する必要があります(所得税法229条、地方税法72条の55第1項)。
 また、従業員を雇用していた場合、廃業した日から1か月以内に、給与支払事務所等の廃止届出書を提出する必要があります(所得税法230条)。
 さらに、青色申告をしない場合には、その申告をやめようとする年の翌年3月15日までに、所得税の青色申告の取りやめ届出書を提出する必要があります(所得税法151条1項)。
 加えて、消費税の課税事業者に該当している場合には、速やかに事業廃止届出書を税務署に提出する必要があります(消費税法57条1項3号)。

1―8 手続関係まとめ

 以上の手続を一覧にすると以下のとおりです。

歯科医院の閉鎖手続と留意点
歯科医院の閉鎖手続と留意点

2 閉院に伴う契約関係等の処理

 閉院には、上記で述べた手続のほか、契約関係の処理について、主に以下の点で注意が必要といえます。

2―1 患者様との契約関係

 契約関係のなかで最も重要なものは、患者様との間の治療契約といえます。
 信頼できる転院先を紹介するなど、その後の患者様の治療をどうするか十分に検討したうえ、患者様に説明して理解を求める必要があります。
 その際、治療費が未払いの場合や治療費が払われているにもかかわらず治療が終わっていない場合など、治療費を巡って問題になることがありますので、閉院に際してはそれらの関係を整理しておく必要があります。

2―2 勤務医・従業員との雇用契約関係

 次に、勤務医や従業員との間で締結している雇用契約も、退職金等を巡ってトラブルになりやすいので、説明には注意が必要といえます。

2―3 賃貸借契約関係

 歯科医院の建物を賃借している場合には、賃貸借契約の処理にも注意が必要です。特に、契約期間途中での解約となる場合には、賃貸借契約上に違約金等に関する条項がないか否かを確認する必要があります。

3 個人情報・保存義務のある書類の取扱い

 廃業しても、個人情報や保存義務のある書類の取扱いは従前と変わりません。そのため、個人情報等の保管及び廃棄には注意が必要です。
 なお、保存義務のある書類の保管期間については、歯科医院において作成・保存義務のある書類とその注意点は?の記事を参照してください。

4 まとめ

 閉院は、新たな人生のスタートともいえます。新たな人生のスタートを問題なくきれるよう、良い閉院を目指しましょう。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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