誹謗中傷への対応~歯科医院のインターネット問題

 最近では、Twitterやfacebook等のSNS、ブログでの情報発信・収集がすっかり定着し、インターネットの情報を基に病院を探す方が増えています。歯科医院専門の口コミサイトもあり、口コミサイトの評価で新患数が急増したという話も聞きます。一方で、このような口コミサイト等において、「歯科医師の腕が悪く医療過誤の一歩手前のことがあった」、「金儲け主義で患者を人間と思っていない」、「スタッフの対応がひどい」等、誹謗中傷する内容が書き込まれてしまう例も少なからず存在します
 この場合、迅速な対応を行わなければ、医院経営に悪影響を及ぼす危険性があります。ということで、今回は「インターネット上に歯科医院の誹謗中傷が書き込まれた場合」の対処法をご紹介します。

1 誹謗中傷を発見。初動対応は?

1-1 事実確認

 インターネット上で誹謗中傷を見つけたとき、初めにすべきは【医院内での徹底した事実確認】です。インターネットに掲載されたことが仮に事実であったなら、それは「誹謗中傷」ではなく、「正当な指摘」と反論・判断されかねません。
 「うちの医院に限ってそんなことはあり得ない」と考えがちですが、まずはスタッフや他の先生方にしっかりと事実を確認することが大切です。スタッフが「そんなに大したことはしていない」と認識していたとしても、患者はとても怒ったり傷ついたりしている場合がありますので、些細なことでも思い出してもらうようにしましょう。

1-2 証拠を確保

 事実を確認し、その書込みが「根拠のない事実に基づく誹謗中傷」であることが判明したとしましょう。この書込みが影響力の大きいもの(会員数の多いサイトに書き込まれた、その書込みを見た方からの問い合わせやキャンセルが相次ぐ等)である場合、適切に対処していくべきなのは言うまでもありません(詳細は後述します)。
 そのためにも最優先で【誹謗中傷が書き込まれた証拠を確保】しましょう。
・誹謗中傷が書き込まれたページを紙に印刷する
・スクリーンショットで保存する
という方法が一般的です。またその際、書き込まれた日時やURLも一緒に保存できるようにしておくとベターです。

1-3 ホームページ上で反論

 歯科医院独自でスグにできる初動対応として、医院のホームページでその誹謗中傷に反論するのも1つの手段です。ただ、このような反論をすることで、その書込みを知らない人たちにも誹謗中傷されたことを知られ、問題を大きくしてしまう恐れもあります。
・ホームページ上で反論するかどうか
・反論するならば、いつ、どのような内容で掲載するか
を慎重に検討しましょう。

1-4 削除依頼

 掲示板等の運営者に「削除依頼」をすることもできます。掲示板等のwebサイトには大抵、運営者の情報や問い合わせフォーム等が掲載されているので、そこから連絡するのがスピーディーですね。
 他に、テレサ協会が出している送信防止措置依頼書を、サイト管理者に送付するという方法もあります。ここでは具体的な方法は割愛しますが、サイト管理者がこの依頼書を受領すると、書込者に対して書込みの削除の可否を尋ね、7日以内に反論がなければ書込みが削除されるという流れです。

1-5 弁護士に相談

 歯科医院側で誹謗中傷に毅然と対応すると決めた場合には、ご自身での対応と並行して、弁護士へ相談されることを強くおすすめします。
 誹謗中傷の書込みに対して名誉毀損が成立するか否かの判断は、簡単ではありません。そのうえ、名誉毀損が成立し、何らかの法的手段が可能としても、書き込んだ人物や媒体によって対応が異なるので、専門家による判断や対応が迅速かつ効果的だからです(詳細は後述します)。

2 法的な対応策

 上記1では、誹謗中傷されたときに「まずできること」をご紹介しました。ここからは「法的な対応は可能か」、「どのような対応をしうるか」をご説明します。

2-1 法律的に主張可能か?

 誹謗中傷の書込みに対して、何かしら法律的な請求をするためには、第一に「その書込みによって歯科医師または歯科医院の権利が侵害されていること」が必要です。
 具体的には
(1)書込みの内容が特定の歯科医院(歯科医師)に関するものだと他人から理解できること
(2)その歯科医院(歯科医師)の具体的な権利が侵害されていること
の2点がポイントです。

 それぞれの内容は以下の通りです。
■(1)書込みの内容が特定の歯科医院(歯科医師)に関するものだと他人から理解できること
 そもそも、書込みの内容(対象)となっている歯科医院が特定できなければ、その医院の権利が侵害されたとは言えません
 なお、「特定」されるということは、「××歯科医院」という名称が公表されていることに限りません。例えば「A歯科医院」のようにイニシャルや伏せ字にしていたとしても、他の情報から特定できるようならば(例えば、駅の北口徒歩5分にある歯科医院等)、「特定」されていると認められる可能性があります。

■(2)具体的な権利が侵害されていること
 ここでいう「具体的な権利」の中で、最もイメージしやすいのは「名誉権」でしょうか。名誉権を侵害するとは「具体的事実を告げて、社会的評価を低下させること」です。
 ですので、誹謗中傷といっても、単に「バカ」や「能なし」等の書込みを延々と繰り返すだけでは、名誉権の侵害とまでは認められません。一方で「ここの歯医者は腕が悪く医療過誤の一歩手前のことがあった」、「ここの歯医者は元受刑者だ」等は、具体的事実を告げて名誉を侵害している書込みといえるでしょう。

2-2 訴訟等での削除請求

 1-4の通り、掲示板等の運営者に「削除依頼」をすることは可能ですが、残念なことに、依頼しても削除に応じてもらえない例も往々にして存在します。
 そんなとき、上記のように「具体的な権利が侵害されている」といえる場合には、法的な請求(例えば裁判を起こす等)も可能です。1か月(長ければ半年)以上の時間がかかることもありますが、削除された後は一般の方の目に触れる可能性も極めて低くなるので、その書込みに悩まされることは非常に少なくなるでしょう。

2-3 書込者の特定(発信者情報開示請求)

 また、誹謗中傷を書き込んだ人物に対して損害賠償を請求することも可能です(といっても、日本の裁判所は高額な賠償金は認めませんが)。
 ただし、書込者がわからない場合、その人物を特定するために、非常に迂遠な裁判上の手続きが必要です。プロバイダー等にも複数の裁判手続きをせねばならず、書込者を特定するまでに最短で半年はかかるのが現状です。
 とはいえ、損害賠償させることで「どちらが悪いのか」が明確となるので、ご自身と歯科医院の名誉を守るために請求なさる先生方も少なくありません。

3 まとめ

 インターネット上で誹謗中傷の書込みをされた場合、大きく分けて「ご自身でできること」と「法的な請求できること」の2つがあります。それぞれの手間と効果を天秤にかけて、最適な方法をお選びください。

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