退職・解雇トラブル~歯科医院トラブル事例と対策
今回はトラブルが起こりやすい「退職」を円満に進めたり、万一トラブルになっても影響を最小限に抑えたりするためのポイントをご紹介します。
1 退職前のトラブル
1-1 退職前の有給休暇取得
有給休暇は、労働基準法で認められた「労働者の権利」です。通常ならば、休暇取得によって事業の正常な運営を妨げられる場合、他の時期に与える(休暇を別の日にズラす)ことができます。ですが、この事例の場合は退職日が決まっており、他の時期に変更することができないため、申請を拒否することは難しいと言わざるをえません。
■対策1 退職の手順を明文化
あらかじめ就業規則に「退職の手順」について規定し、普段から医院全体に周知しておきましょう。今回のようなケースに備えるならば、「業務の引き継ぎは退職日までに漏れなく実施する」よう規定しておくべきです。
その際、少なくとも
・退職する場合は、1~3ヶ月前に書面で申し出ること
・退職までに引き継ぎを完了し、歯科医師または上席スタッフから確認を受けること
・退職日から遡って2週間は勤務(出勤)すること
・これらの規定に反する場合は懲戒処分もあり得ること
などは盛り込んでおきましょう。これら事項を規定したとしてもスタッフに義務づけることは法律上難しいのですが、あくまでも会社の要望として有給休暇の取得をルール化する効果はあると思います。
■対策2 有給休暇の買い上げ
その他、退職後の有給休暇を買い上げるという方法もあります。本来退職時には、残った有給休暇の権利は消滅しますが、「残った有給休暇を買い上げる」という仕組みを定めておけば、めいっぱい働いて有給休暇は金銭に、という方もでてきます。スタッフに少しでも長く働いてもらいたいとお考えならば、このような制度を導入するのも良いでしょう。
ただし通常時に、有給休暇を買い上げるのと引き換えに、請求された有給休暇を与えないことは法律違反になりますので、ご注意ください。
2 解雇をめぐるトラブル
2-1 無断欠勤
職場でのいじめやパワーハラスメントが理由で、欠勤している可能性もあります。その場合、何の手立ても講じなければ労基署を巻き込んだトラブルなど深刻な事態に発展するケースもあるため、まずは可能な限り連絡を取ろうとしてください。
ただ、その間も社会保険料の負担が継続する他、業務分担やシフトの変更で医院内が混乱することは想像に難くありません。
■対策1 具体的な解雇事由の規定
「この行為をしたら解雇します」という解雇事由を、なるべく具体的に就業規則に記載しておきましょう。無断欠勤の長期化を回避するならば、例えば「届け出なく欠勤し、医院からの連絡に応じない場合、欠勤開始から2週間を経過した日に退職したものとみなす」という規定を入れておくと良いでしょう。ちなみに、行政通達でも「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合に解雇が認められる」とされています。
以前の記事でも書きましたが、就業規則に記載がない理由での解雇は非常に難しいので、今の記載で足りるか十分確認しておきましょう。
■対策2 給与の支払い方法
出勤を促す方法として、就業規則に給与の支払い方法を、「振込または手渡し」としておくこともできます。そうすると、無断欠勤が続くスタッフに「給与を受取に出社して欲しい」と主張し、スタッフと交渉する機会を確保することが可能になるのです。
2-2 業務外のトラブル
スタッフ間での金銭トラブルとはいえ、業務とは直接関係ない私生活上の行為なので、解雇などの懲戒処分ができるかは難しい問題です。それぞれの行為の性質や医院の状況・方針、当該スタッフの地位などを踏まえた総合的な判断になるでしょう。
■対策 服務規律の制定とスタッフ教育
あまりに悪質かつ業務や経営への影響が甚大でない限り、私生活上の行為を理由とした解雇処分は難しいと言わざるをえません。
だから、事前に服務規律について就業規則で定め、しっかりスタッフを教育しておくことが何よりも大切です。今回の事例は金銭の貸し借りでしたが、他にも宗教や男女問題など私人間のトラブルは多岐に渡ります。
3 退職・解雇トラブルを予防するために
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