女性「募集」と「産休・育休」の落とし穴

 歯科医院では、歯科衛生士・歯科助手・受付スタッフだけでなく、歯科医師も女性が大いに活躍しています。歯科医院の経営者である先生方にとっては、いかに彼女らに活躍してもらうかが、医院経営を左右するといっても過言ではありません。
 今回は、女性スタッフの「募集」と「出産・育児」の場合の注意点を説明していきます。

  

1 スタッフ「募集」の場合

1-1 女性に限定した募集広告はできるか

 歯科医院にとって、より良い職員を確保することは切実な問題です。また、最近では、女性の患者さんに安心感を持ってもらうため、女性の医師に対応させたいという医院が増えているとも聞きます。
 では、実際に「女性」に限定して求人を行うことに法的な問題はないのでしょうか。

1-2 女性限定の募集は法律違反

 結論から申し上げると、性別を限定して採用活動することは法律違反となる場合が多いので、実施の際には注意が必要です。

 男女雇用機会均等法は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」(5条)と定めています。
 また、厚生労働省は、事業主が適切に対処する指針として、例えば次のことを禁止しています。
 (1) 募集又は採用に当たって、その対象から男女のいずれかを排除すること。
 (2) 募集又は採用に当たっての条件を男女で異なるものとすること。
 (3) 採用選考において、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること。

 以上のように、男女問わず性別を限定して募集をすることは法律違反となる場合があり、行政機関等から指導を受ける恐れがあるのでご注意ください。

1-3 結果的に女性を採用することは違反ではない

 念のため申し添えますが、上で見た男女雇用機会均等法は、あくまで性別を限定して「採用活動をする」ことを禁止しているのであり、採用面接の結果、女性医師を採用することは何ら問題ありません。
 つまり、結果として女性だけの歯科医院が出来ることには問題がないというわけです。

2 女性スタッフの出産・育児に対する対応

2-1 歯科医師、経営者の悩み

 働く女性にとって嬉しいことでもあり、目の当たりにする問題として出産・育児があります。他方、経営者から見ても職員の出産・育児は喜ばしい反面、経営的に悩ましい問題があることは否定できないでしょう。特に、スタッフが10名以下の小規模な歯科医院では、一人が長期の休業をする際には新しい職員を補充しなければ業務が滞ってしまう状況も散見されます。
 ここでは、妊娠・出産・育児に関する取扱いについて見ていきましょう。

2-2 妊娠したスタッフへの対応

 スタッフから「妊娠したため今まで行っていた残業を外してほしい」との申し出があった場合、経営者は必ず対応しなければいけないのでしょうか。

 歯科医院において、歯科助手の方などに残業してもらうことも珍しくないかと思います。通常であれば、残業して働いてもらうことも、残業時間が適切な時間帯であり、スタッフからの同意もあって、残業代をしっかり払っていれば問題ありません。
 ただし、妊娠中の女性の場合、違った配慮が必要となってきます。
 例えば、労働基準法では、妊娠中の女性が請求した場合には時間外労働・休日労働をさせてはならないとしています。しかもこの規定に違反した場合、事業主は6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

 つまり、妊娠した従業員からの「残業を外してほしい」という申し出には対応しなければならない。ということになります。

2-3 出産を理由に解雇できるか

 では、出産後はどうでしょう。出産した女性が育児もしながら、歯科医院での勤務を行うのは簡単なことではありません。医院の経営にも小さくない影響があるため、女性従業員が出産する際には退職するようにお願いをしている歯科医院もあるのではないでしょうか。
 ただ、出産後も女性が働くことが一般的になってきた現在において、産休・育休後も仕事を続けたいという方が増えているのは明らかです。では、歯科医師の先生方は、どのように対処すべきなのでしょうか。

 結論として、出産・育児を理由に解雇することは法律違反となりますので、絶対に避けねばなりません。

 上で見た男女雇用機会均等法や厚生労働省の指針でも、退職勧奨について以下の取り扱いを禁止しています。
 (1) 男女どちらかだけを退職勧奨の対象とすること。
 (2) 男女で異なる退職勧奨の条件を設けること。
 (3) 男女で異なる方法や基準により、能力及び資質の有無等を判断して退職勧奨を行うこと。

 つまり職員から「産休・育休」および「復職」の申し出があった場合、医院側は応じなければならないという事になります。

2-4 違反した場合の不利益

 上記の男女雇用機会均等法等に違反した場合、行政指導の対象となり、労基署等から調査を受ける可能性があります。またその後の是正勧告に医院が応じなかった場合、医院の名称が公表される可能性もあります。
 労基署から行政指導を受ければ、指導された点の改善、改善したことを示す報告書の作成・提出をしなければなりませんので、先生ご自身にも多大な時間と手間がかかります。医院の名称が公表されれば、集患や経営に悪影響が出ることは想像に難くありません。

 そのうえ、スタッフを退職させたことが違法と判断された場合、その退職の効力が無効となることも考えられます。つまり、スタッフが退職勧奨に応じて退職していたとしても、退職勧奨が男女雇用機会均等法に違反した場合、その後の退職も無効となる可能性が高いということです。
 退職が無効になれば、そのスタッフとの労働関係は継続していることになるので、医院側はそのスタッフを復職させなければならず、復職までの給料も支払わなければなりません。

2-5 まとめ

 確かに、産休・育休によって一時的にスタッフ数が減ることは大変ですが、育休後に復帰してもらうことによって、長期的に見れば人材が入れ替わることによるサービス低下を防ぐことができるようになります。
 スタッフの人材確保が難しい昨今の状況において、スタッフが安心して長期間働ける職場環境を整えることは、今後の歯科医院経営にとっては必要不可欠なことではないでしょうか。そのためにも、性別や妊娠・出産にかかる特別な取扱いにご注意いただき、全員が気持ちよく働ける職場のルールを作っておくことが大切です。

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