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勤務医・従業員のミスについて歯科医院が責任を負う?

 歯科医院を経営する先生方は、歯科医師でもあり、経営者でもあります。歯科医院を拡大するにあたって、歯科医師や従業員を雇用することもあるでしょう。勤務医や従業員がミスをして患者様に損害を与えた場合、歯科医院はその損害を賠償する責任を負うのでしょうか。
 今回は、勤務医・従業員のミスと歯科医院の賠償責任との関係を説明いたします。

1 勤務医・従業員がミスをした場合、歯科医院は賠償責任を負う

 結論として、勤務医・従業員がミスをして患者様に損害を与えた場合、当該勤務医・従業員を雇用等する歯科医師ないし医療法人(以下「歯科医院側」といいます)は、患者様に対して損害賠償責任を負うことになります。

2 法的根拠

 では、歯科医院側が賠償責任を負う法的根拠はどのようなものでしょうか。
 主な法的根拠としては、①契約責任(債務不履行責任)と②使用者責任(不法行為責任)が挙げられます。以下説明します。

2-1 契約責任(債務不履行責任)

 患者様が歯科医院における治療に同意した場合、法的には、患者様と歯科医院側との間で診療契約が締結されることになります。
 実際に診療行為を行うのは勤務医であったとしても、契約は歯科医院側と患者様との間で締結されることになります。

診療契約

 診療契約の法的性質は、準委任契約(民法656条)と考えられています。そうすると、歯科医院側は、患者様に対して善良な管理者の注意をもって診療行為を行わなければならないという善管注意義務(民法656条、644条)を負います。
 この善管注意義務には、勤務医・従業員に対する管理監督義務も含まれると考えられるため、勤務医・従業員のミスにより患者様に損害が生じた場合、歯科医院側の勤務医・従業員に対する管理監督義務違反によって損害が生じたとして、歯科医院側が損害賠償責任を負うことになります。
 また、勤務医・従業員は、法的には歯科医院側の履行補助者(診療行為を手伝う者)という立場になり、判例上、履行補助者の故意過失によって生じた損害は契約の当事者が負うこととなるため、契約の当事者である歯科医院側が、患者様に対して損害賠償責任を負うこととなります。
 これを図で表すと、以下のとおりとなります。

債務不履行に基づく損害賠償請求

2-2 使用者責任(不法行為責任)

 また、勤務医・従業員のミスにより患者様に損害が生じた場合、勤務医・従業員は不法行為者として損害賠償責任を負うことになりますが(民法709条)、勤務医・従業員を雇用等している歯科医院側も、勤務医と連帯して賠償責任を負うことになります(民法715条1項本文)。この責任を使用者責任と呼びます。
 ここで注意が必要なのが、勤務医・従業員との契約関係が雇用であれ、業務委託であれ、歯科医院側が勤務医・従業員を指揮監督する立場にあり、勤務医・従業員の行為が外形的・客観的に歯科医院側の職務の範囲内に属していると認められる場合には、使用者責任を負うということです。つまり、歯科医院内で勤務医・従業員が患者様に対して診療行為等を行った場合には、歯科医院側は使用者責任を負う可能性があるということになります。
 なお、条文上、歯科医院側が勤務医・従業員の監督について相当の注意を払っていた場合には歯科医院側に責任が生じないとされていますが(民法715条1項但書)、この条項が適用されて免責された事例はほとんどありません。
 以上を図で表すと、以下のとおりとなります。

不法行為に基づく損害賠償請求

3 勤務医・従業員への求償

 歯科医院側が患者様に対して損害を賠償した場合、歯科医院側は、勤務医・従業員に対して、支払った賠償金額を限度として、求償権を取得します。
 もっとも、求償可能な範囲は、「事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」(最高裁昭和51年7月8日判決参照)ということになり、必ずしも全ての賠償金額を勤務医・従業員から回収できるわけではないことに注意が必要です。

4 歯科医院側のとるべき対策

 先生方としては、勤務医・従業員の管理監督をしっかりすることはもちろんですが、万が一ミスによって損害が生じた場合にもその損害の補填ができるよう、賠償責任保険等に加入されることをお勧めします。
 もっとも、賠償責任保険は保険金を支払う場合や範囲が限られているため、事前に約款等を確認しておく必要があります。

5 まとめ

 以上まとめると、

  1. ・勤務医・従業員のミスにより生じた患者様の損害につき、歯科医院側は賠償義務を負う。
  2. ・勤務医・従業員との契約形式は問われず、指揮監督関係が成立していれば賠償責任を負う。
  3. ・歯科医院側が損害を賠償した場合、勤務医・従業員に求償できるが、その範囲が限定されることもある。
  4. ・賠償責任保険への加入を検討すべき。

ということになります。
 勤務医・従業員を扱うのは、歯科医院を拡大するために欠かせないものといえますが、一方でリスクも増えるということを忘れず、健全な経営を目指してください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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