歯科医院のデューデリジェンス(DD)における留意点
医療機関をM&Aするときや医療機関に対して投資を実行する際、その医療機関について調査(デューデリジェンス)を行うかと思います。
税理士様や弁護士と協同して行うことも多いですが、最終的に投資を実行するのは歯科医院を運営する先生方なので、留意点等は知っておくべきといえます。
今回は、デューデリジェンスにおける留意点について説明いたします。
目次
1 デューデリジェンス(DD)とは
デューデリジェンス(DD)とは、M&A(Mergers&Acquisitions。合併と買収)や投資等をする際に、M&Aの手法やとるべき手続、取引価格等に関する意思決定に影響を及ぼすような資産の適正評価及びリスクや問題点等を調査・検討する手続のことをいいます。
デューデリジェンスでは、法的な事項にも、財務、人事、事業内容等の多角的視点から行う必要があります。
2 DDの概要
DDの概要としては、以下のとおりまとめることができます。以下の図は、概要をまとめたものであり、個々の歯科医院によって行うべき調査や留意すべき事項は異なってきます。
3 DDを行う際の留意点
歯科医院のDDには、一般的なDDにおける留意点に加え、医療機関特有の留意点がありますので、主な留意点を以下で説明します。
3-1 法令その他の規制
歯科医院の運営主体は、開設者の先生個人のほか、医療法人の場合もあります。また、医療法人にも、社団・財団等の違い、持分の有無等、様々な種類があります。運営主体によって、適用法令や選択可能な手続が異なってきますので、この点には注意が必要です。
また、歯科医業には、法令のほか、厚生労働省からの告示やガイドライン等、様々な規制が及んでいるので、DDをする際には、当該歯科医院の事業内容を把握し、規制の根拠となる法令等について検討することが必要となります。
3-2 簿外債務
決算書に記載されていない債務(簿外債務)については、思わぬリスクになりますので、十分注意しておく必要があります。代表的な例としては、従業員の退職金や医療機器のリース契約、患者からの損害賠償請求等が挙げられます。
3-3 MS法人との権利関係
DDの対象となる歯科医院に、メディカルサービス法人(いわゆるMS法人)が存在する場合、MS法人との関係をどのように整理するのかを検討する必要があります。また、検討結果によっては、MS法人に対してもDDを行う必要性が生じる場合もあります。
3-4 個人情報の開示
歯科医院は、患者様の個人情報等を有しており、DDに際して、提供できるか否かが問題となることも少なくありません。
個人情報の保護に関する法律第23条5項2号には、「合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合」には、第三者提供に該当せず、患者様等の第三者の同意は要しないと規定されていますが、DDは合併等の前段階であるため、同規定に該当するのか、事前に個人情報の管理に関する契約を締結しておけば足りるのか、ということについては見解が分かれています。
なお、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に関するQ&A(事例集)のQ4-27には、「医療機関の廃止等の理由により、別の医療機関が業務を承継することになりましたが、診療録等の個人データを提供する際に、患者の同意が必要なのでしょうか」という問いに対して、承継先の機関は個人情報の保護に関する法律第23条5項2号により第三者に該当しないとしていますが、DDの場合には承継するかどうかが未定であるため、この問いにおける回答は当てはまらないと考えます。
このように見解は分かれていますが、リスクを判断するためのDDでリスクを負うというのは本末転倒であるため、DDに際しては、患者様等の情報を匿名化する等の措置を講じるのが安全であるといえます。
3-5 DDによっても把握できないリスク
対象となる歯科医院が正確な情報を開示しない場合、上記のようなDDによっても把握できないリスクもあります。
このリスクを回避するために、最終契約書には、契約に際して、対象となる歯科医院は正確な情報を開示していることを保証する旨の表明保証条項を設ける必要があります。
4 まとめ
DDの主な留意点は以下のとおりですが、実際に行う際には、後に問題の生じないM&Aや投資を行うため、弁護士や税理士等の専門家と協同していただければと思います。
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