保健指導を行うときに注意すべき点は?

先生方は、患者様の治療後、保健指導を行うかと思いますが、保健指導を行う際にも注意すべき点があります。意識的に保健指導を行うことによって、防ぐことのできるリスクもあります。

今回は、保健指導の留意点について説明しています。

1 保健指導の根拠

歯科医師の行う保健指導の根拠は、歯科医師法に定められています。
歯科医師法第1条及び第22条は、保健指導について、以下のとおり規定しています。

第1条 歯科医師は、歯科医療及び保健指導を掌ることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする。

第22条 歯科医師は、診療をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない。

条文で「しなければならない」と規定していることから、法は、歯科医師に対し、保健指導を行うことを義務づけています。

2 保健指導の留意点

保健指導に関する歯科医師法の定めは上記のとおりであり、具体的にどのような方法で行う必要があるかについては規定されていません。

もっとも、保健指導を行うにあたっては、いくつか注意すべき点がありますので、以下で説明します。

2-1 保健指導の時期

歯科医師法は、保健指導を「診療をしたとき」に行わなければならない旨定めているため、保健指導は診療終了後にする必要があります。
複数回治療が続くときも、1回の診療が終わるごとに「診療をしたとき」となるため、保健指導を行う必要があるといえます。

2-2 保健指導の内容

保健指導をどの程度行うかは、診療を行った歯科医師の裁量となっていますが、患者様に伝わるよう、分かりやすく、具体的に行う必要があるといえます。
「入浴の禁止」「飲酒の禁止」、「激しい運動の禁止」等がよくなされる保健指導といえるでしょう。

また、患者様に質問の機会を与えることも、丁寧な保健指導を行ったといえるためには必要であるといえるでしょう。

さらに、説明義務とも関連しますが、矯正治療やインプラント治療といった一定期間を要する治療の場合には、治療の最初に注意事項として保健指導で説明するようなことを記載した書面を患者様にお渡しすることも重要といえます。

2-3 子供への説明

歯科医師法は、保健指導を行う対象を「本人又はその保護者」としています。
患者様が保健指導の内容を理解できるか否かが微妙な年齢の子供である場合等には、患者様本人のみならず、保護者の方にも保健指導を行うべきでしょう。

2-4 カルテへの記載

保健指導において説明した内容は、要点をカルテに記載しておく必要があります。

カルテは、保健指導を行ったことの証拠にもなりますので、忘れずにしっかりと記載しておき、後で読み返した際にどのような指導をしたのか説明できる内容になっている必要があるといえます。

2-5 保健指導を怠った場合に生じる法的責任

保健指導は、歯科医師の義務となっているため、保健指導を怠ってしまったり、指導が不十分となってしまい、それによって患者様に損害を与えてしまった場合には、歯科医院側が損害賠償責任を負う可能性があります。
例えば、矯正治療の際のブラッシング指導が不十分であったために重大なう蝕が生じてしまった場合に、歯科医師の保健指導が不十分であったとして、義務違反が認定される可能性があります。

もちろん、口腔衛生管理は患者様において行ってもらうものですし、常識的に分かる範囲の禁止事項を患者様が行った場合に、歯科医師の保健指導義務違反とまで判断されるかについては疑問があります。

もっとも、保健指導が歯科医師の義務として歯科医師法に定められている以上は、上記のようなリスクが生じますので、少なくとも、「保健指導を行っていない」ということにならないようにしてもらえればと思います。

3 まとめ

治療行為は全く問題なかったにもかかわらず、保健指導を怠ったために紛争となるのは、先生方にとって不本意な結果といえます。
適切な保健指導を心がけ、カルテ等に記録を残すことにより、保健指導の点についても、紛争リスクを抱えない治療を行っていただければと思います。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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