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医療法人の分割の条件と手続

 平成28年9月1日から、医療法人の組織再編として、分割ができることになりました。事業承継対策の一つとして、医療法人の分割を検討されている先生方もいらっしゃると思います。
 今回は、医療法人における分割の条件と手続について説明いたします。

1 分割とは

 医療法上、分割の定義(後述する吸収分割、新設分割の定義は規定されています)はありませんが、一般的に、分割とは、法人がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、法定の手続きによって他の法人に移転させる効果を生じさせるものをいいます。
 分割の特徴としては、分割する側の法人の権利義務を包括的に承継することが挙げられます(医療法第60条の6、第61条の4)。権利(資産)のみならず、義務(負債)も承継することに注意が必要です。
 分割と同様の効果を生じさせるものとして、事業譲渡が挙げられますが、事業譲渡は包括的に承継させる効果を有しないため、移転させる権利義務を特定して行う必要があることや、債権者・労働者の個別同意が必要なこと等に違いがあります。分割と事業譲渡の違いは、以下のとおりです。

医療法人の分割の条件と手続

2 分割の種類

 分割には、吸収分割と新設分割の2種類があります。
 吸収分割は、医療法人がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の医療法人に承継させるものをいいます(医療法第60条)。
 新設分割は、一又は二以上の医療法人がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する医療法人に承継させるものをいいます(医療法第61条)。
 簡単に言えば、承継させる側の医療法人が既存の医療法人の場合を吸収分割、新設の医療
法人かの場合を新設分割ということになります。

3 分割のできない医療法人

 以下の医療法人は、分割ができないものとされています(医療法第60条、同法施行規則第35条の6)。特に持ち分の定めのある医療法人では分割ができないとされていることに注意が必要です。

  1. ①社会医療法人
  2. ②租税特別措置法第67条の21項に規定する特定の医療法人(特定医療法人)
  3. ③持ち分の定めのある医療法人
  4. ④法第42条の3第1項の規定により実施計画の認定を受けた医療法人

4 医療法人における分割の手続

 分割の手続きの大きな流れとしては、①吸収分割契約を締結(吸収分割の場合)又は新設分割計画を作成(新設分割の場合)し、②医療法人内部で分割の決議を行い、③都道府県知事の認可を受けるというものになります。認可後には、登記や債権者保護手続が必要となります。
 以下で、それぞれの手続の概要を説明します。

4-1 吸収分割契約の締結又は新設分割契約の作成

 吸収分割契約には、吸収分割する医療法人(以下「吸収分割医療法人」といいます)及び承継を受ける医療法人(以下「吸収分割承継医療法人」といいます)の名称や主たる事務所、承継する資産・債務・雇用契約その他の権利義務に関する事項、吸収分割医療法人及び吸収分割承継医療法人の吸収分割後2年間の事業計画又はその要旨、吸収分割の効力発生日等を記載します(医療法第60条の2、施行規則第35条の7)。
 新設分割計画には、分割により新たに設立する医療法人(以下「新設分割設立医療法人」といいます)の目的・名称・主たる事務所の所在地、新設分割設立医療法人の定款又は寄附行為で定める事項、承継する資産・債務・雇用契約その他の権利義務に関する事項、新設分割医療法人及び新設分割設立医療法人の新設分割後2年間の事業計画又はその要旨、新設分割の効力発生日等を記載します(医療法第61条の2、施行規則第35条の10)。
 吸収分割や2以上の医療法人による新設分割の場合、この段階で、互いに資料等を開示して、資産・負債を把握したうえで、認識の齟齬のないようにすべきといえます。また、開示の際には、秘密保持契約を締結し、他者に法人の内部情報が漏れないような対策を講じる必要があります。

4-2 分割の決議

 吸収分割契約の締結又は新設分割計画の作成後、医療法人内で同契約又は計画を承認する決議をする必要があります(医療法第60条の3、61条の3)。
 社団医療法人においては、医療法人の総社員の同意を得なければなりません。
 財団医療法人においては、寄附行為に分割をすることができる旨の定めがある場合に限って分割を行うことができます。その場合、寄附行為に別段の定めがある場合を除いて、理事の3分の2以上の同意を得る必要があります。

4-3 認可手続

 分割は、吸収分割承継医療法人又は新設分割設立医療法人の主たる事務所の所在地における都道府県知事の認可を受けなければ効力を生じません(医療法第60条の3第4項、61条の3)。
 認可に際しては、以下のような書類を添付する必要があります(医療法施行規則第35条の8、35条の11)。

  1. ①理由書
  2. ②議事録
  3. ③吸収分割契約書又は新設分割計画書の写し
  4. ④吸収分割承継医療法人又は新設分割設立医療法人における定款又は寄附行為
  5. ⑤吸収分割医療法人又は新設分割医療法人の定款又は寄附行為
  6. ⑥分割前の各医療法人の財産目録及び貸借対照表
  7. ⑧分割に関わった医療法人の次の書類
    A分割後2年間の事業計画及びこれに伴う予算書
    B新たに就任する役員の就任承諾書及び履歴書
    C開設しようとする診療所の管理者となるべき者の氏名を記載した書面

4-4 認可後の手続

 医療法人は、認可の通知があった日から2週間以内に、その時点における財産目録及び貸借対照表を作成し、分割登記までの間、主たる事務所に備え置かなければなりません(医療法第60条の4、61条の3)。
 また、債権者保護手続のため、上記期間内に、異議申立期間についての公告と、判明している債権者に対して個別通知をする必要があります(医療法第60条の5、61条の3)。
 債権者保護手続終了後、登記をします。分割は、登記により効力を生じることになります(医療法第60条の7、61条の5)、

4-5 従業員の手続

 医療法人の分割においても、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律が準用されるため(医療法第62条)、承継される事業に主として従事する労働者や分割によって承継される労働者に対して、分割に関する事項を通知し、異議申立ての機会を与える必要があります。

4-6 患者様への対応

 医療法に記載されていませんが、分割により運営母体に変更が生じるため、患者様への説明はしっかりと行うべきといえます。

5 税務関係

 分割の税務関係については別の記事で説明する予定ですが、税務上有利な適格分割ができるか否かを検討することが重要といえます。

6 まとめ

 分割の手続は、複雑なものであるうえ、税務に関する問題も関わってきます。弁護士や税理士等の専門家と協同して、後に問題の生じない分割をしていただければと思います。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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