患者様からの謝礼は受け取って良い?

 歯科治療をする前又は終わった後に、患者様から感謝の気持ちとして謝礼の申し出があることもあるかと思います。
 患者様からの好意ですので、物によっては、受け取るべきか迷われる先生方も多いのではないでしょうか。
 今回は、謝礼の扱いについて説明致します。

1 患者様からの謝礼を受け取ることの留意点

 患者様から提供される謝礼としては、現金、ギフト券、お菓子等が挙げられます。
 歯科医院を運営される先生方によって、患者様の好意なのでその全てを受け取る、現金は断る、全てを断る等、対応は様々かと思います。
 もっとも、謝礼を受け取ることには、一定程度リスクがあるといえます。以下では、謝礼を受け取ることの問題点を説明します。

1-1 職業倫理上の問題

 日本歯科医師会が指針として発行する「信頼される歯科医師Ⅱ 歯科医師の職業倫理」には、以下の記載があります。

歯科医師は、歯科医療行為に対し定められた以外の報酬を要求してはならない。患者から謝礼を受け取ることは、医療上の便宜が図られるのではないかという懸念を抱かせる。これが習慣化すれば、結果として歯科医療全体に対する国民の信頼を損なうことになるので慎むべきである。

 上記のとおり、患者様から謝礼を受け取ることは、職業倫理上問題があるとされています。

1-2 健康保険制度上の問題

 通達(H4.4.8老健第79号)では、保険給付と重複する「サービス」又は「物」については、その名目の如何を問わず患者様から費用を徴収することは認められないとされています。
 患者様からの自発的な謝礼の申し出が「費用の徴収」に該当するか否かは、結論が分かれ得るところかと思いますが、リスクではあるので、控えるべきといえます。

1-3 税務上の問題

 受け取った謝礼と業務に対価性が認められた場合には、事業所得や雑所得等として所得税の課税対象となります。
 なお、謝礼は贈与税として課税対象となる場合もありますが、贈与税の場合、社会的儀礼として相当と認められるもの(社会通念上相当と認められるもの)については課税しないと取り扱われています(相続税法基本通達21の3-9)。

1-4 服務規律上の問題

 歯科医院を運営する先生方ではなく、勤務している歯科医師様の問題ですが、勤務先の歯科医院において、就業規則等で謝礼の受領を禁止している場合、謝礼を受け取ることは同規則等に違反することになるため、懲戒処分の対象となる可能性があります。
 歯科医院を運営する先生方にとっても、勤務医が謝礼を受け取ることは歯科医院が受け取ったことと同視される可能性があるので、上記問題を考えると、就業規則等で謝礼の受け取りを禁止する旨規定しておくのが良いのではないかと思います。

1-5 国公立病院における問題

 病院が国公立の場合で、先生方が公務員となる場合には、職務行為と対価性のある謝礼は賄賂として、収賄罪(刑法197条)に問われる可能性があります。

2 謝礼が金銭的に価値の低いものの場合

 少額の商品券やお菓子等、謝礼が金銭的に価値の低いものである場合にも、基本的には上記と同様の考えが採用されます。
 もっとも、金銭的に価値の低いものは業務との対価性が認められにくく、かつ社会的儀礼の範囲内と判断される可能性が高いため、現金よりは危険性は低いといえます。
 そのため、商品券等の金額にもよりますが、少額の商品券やお菓子等であれば、受け取っても問題は少ないと考えられます。

3 まとめ

 謝礼を受け取ることには、職業倫理上の問題のほか、保険診療との関係における問題や税法上の問題も存在しています。従業員様が勝手に謝礼をもらってしまったということを防ぐため、受け取っても問題ないと考える社会的儀礼の範囲等を定める等、体制を整備していただければと思います。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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