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歯科技工士・歯科衛生士・歯科助手の業務範囲

 歯科医院は、歯科医師の先生方のほかに、歯科技工士、歯科衛生士、歯科助手等が業務を行っています。
 患者様の治療の中で、歯科衛生士がどこまで行ってよいのか等、それぞれの業務範囲につき迷うこともあるかと思います。また、最近では、予防歯科の技術が進む中で、歯科衛生士の歯磨きサロンが適法か否か等の問題も出てきています。
 そこで、今回は、歯科技工士・歯科衛生士・歯科助手の業務範囲について説明いたします。

1 歯科技工士とは

 歯科技工士法上、歯科技工士の定義と業務範囲は以下のように規定されています。

(用語の定義)
第2条 この法律において、「歯科技工」とは、特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物、充てん物又は矯正装置を作成し、修理し、又は加工することをいう。ただし、歯科医師(歯科医業を行うことができる医師を含む。以下同じ。)がその診療中の患者のために自ら行う行為を除く。
2 この法律において、「歯科技工士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、歯科技工を業とする者をいう。
3 略

1-1 原則として歯科医師の指示書が必要

 歯科技工士法第18条では、歯科技工士は、厚生労働省令で定める事項を記載した歯科医師の指示書によらなければ業として歯科技工を行ってはならないとされています。そのため、原則として、歯科医師の指示書がなければ、補てつ物、充てん物又は矯正装置の作成行為等をすることができないということになります。
 もっとも、病院又は診療所内の場所において、患者の治療を担当する歯科医師の直接の指示に基づいて歯科技工を行う場合には、指示書はいらないとされています。

1-2 歯科技工士の業務範囲における注意点

 歯科技工士の業務範囲を考えるに当たっては、上記規定のほか、以下の規定に注意が必要です。

(業務上の注意)
第20条 歯科技工士は、その業務を行うに当っては、印象採得、咬合採得、試適、装着その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。

 この規定からすれば、たとえ歯科医師の先生方の指示があったとしても、歯科技工士が直接に鋳造冠の調整や装着を行うことはできません。
 鋳造冠の調整や装着は歯科医業に該当するため、歯科技工士が上記のような行為をした場合には、歯科医師法第17条違反となり、3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処せられる可能性があるので(歯科医師法第29条)、特に注意が必要といえます。

2 歯科衛生士とは

 歯科衛生士法上、歯科衛生士の定義と業務範囲は以下のように規定されています。

(用語の定義)
第2条 この法律において、「歯科衛生士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて歯科医師(歯科医業を行うことができる医師を含む。以下同じ。)の指導の下に、歯牙及び口腔の疾患の予防処置として次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。
①歯牙露出面及び正常な歯茎の遊離縁下の付着物及び沈着物を機械的操作によって除去すること。
②歯牙及び口腔に対して薬物を塗布すること。
2 歯科衛生士は、保健師助産師看護師法(昭和23年法第203号)第31条第1項及び第32条の規定にかかわらず、歯科診療の補助をなすことを業とすることができる。
3 歯科衛生士は、前2項に規定する業務のほか、歯科衛生士の名称を用いて、歯科保健指導をなすことを業とすることができる。

 一般的に、第2条1項の行為を「歯科予防処置」、2項の行為を「歯科診療補助」、3項の行為を「歯科保健指導」と呼んでいます。
 歯科予防処置は、歯科医師の指導のもとでなければ行うことはできません。
 歯科診療補助は、原則として主治の歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、又は医薬品について指示をなし、その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならないとされています(歯科衛生士法第13条の2)。
 歯科保健指導は、歯科保健指導をなすに当たって主治の歯科医師又は医師があるときは、その指示を受けなければならないとされています(歯科衛生士法第13条の3)。

2-1 歯科衛生士の業務範囲の広がり

 歯科診療補助については、具体的事項が列挙されていないため、その範囲について、解釈に争いがあります。
 一般的には、医行為のうち、歯科医師が常に自ら行わなければならないほど高度に危険な行為(絶対的医行為)以外の行為(相対的医行為)が歯科診療補助の範囲といえます。
 どの行為が相対的医行為に該当するかという点については、医療機器等が日々進歩している関係もあり、その境界性が曖昧な部分もありますので、新しい医行為を歯科診療補助として歯科衛生士が行おうとする際には、高度に危険な行為か否かを検討する必要があるといえます。

2-2 歯磨きサロンの適法性

 歯磨き指導自体は、歯科保健指導といえますので、歯科衛生士の業務範囲として行うことができます。
 もっとも、歯磨きサロンについては、歯磨き指導のみならず、歯石の除去やホワイトニング等の歯科予防処置を行っているところもあったため、平成22年8月23日付事務連絡により、歯科予防処置については歯科医師の直接の指導の下行わなければならないという注意がなされています。なお、「直接の」という部分は、平成27年の歯科衛生士法の改正により削除されていますが、指導を受けなければならない点で変わりはないといえます。

3 歯科助手とは

 歯科助手は、法律上の用語ではなく、特に資格も要しないため、法律では業務範囲について明記していません。歯科医院において、歯科衛生士等の資格を有さずに業務を行っている者は歯科助手といえるでしょう。
 一般的には、歯科助手の業務は受付業務及び診療介助業務となります。

3-1 受付業務

 受付業務としては、受付・会計のほか、電話対応、予約スケジュールの管理、保険証確認、診察券の発行、カルテの作成等が挙げられます。

3-2 診療介助業務

 診療介助業務としては、治療用器具の管理、診療室内管理、器具の受渡し、バキューム操作等が挙げられます。
 ここで注意しなければならないことは、歯科助手は資格を有するものではないため、絶対的医行為はもちろんのこと、相対的医行為もしてはならないということです。

4 まとめ

 歯科技工士、歯科衛生士、歯科助手等の業務範囲を理解し、法律に抵触しないような運営を心掛けてください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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