歯科医院の未収金対策

 先生方が患者様を診療した場合、歯科医院側は当該診療の費用及び報酬を請求することができます。つまり、歯科医院側は、患者様に対し、診療報酬請求権を有します。
 保険医療においては、少なくとも、診療報酬の7割が保険者負担であるものの、患者様が診療報酬を支払わなければ3割分について未収金が生じますし、自由診療では診療報酬の全額を患者様が負担するため、患者様が診療報酬を支払わなければ全額について未収金が生じてしまいます。このように、歯科医院を経営している以上、未払診療報酬の回収は検討すべき課題といえます。
 また、診療報酬は回収の有無にかかわらず売上げとして課税の対象になることに加え、患者様の診療費負担の公平性の観点からいえば、未収金を回収しないまま放置するわけにもいきません。
 そこで、今回は、歯科医院においてとるべき未収金対策について説明いたします。

1 未収金の回収方法

 未収金の回収方法には、①任意による回収方法と、②法的手続による回収方法があります。
以下でそれぞれの回収方法について説明いたします。

1-1 任意による回収方法

 任意による回収方法としては、患者様に架電をして交渉する方法や、書面やメールで請求して支払を促す方法、患者様のご自宅に伺って直接交渉する方法等が考えられます。
 任意による回収は、未払金を患者様に納得して支払ってもらう必要があります。そのため、請求方法を検討する場合には、どのような方法で連絡をとれば患者様の納得を得やすいのか、という観点で考える必要があります。
 患者様の中には、診療報酬が未払いであることを忘れている方もいますので、最初から「あなたは診療報酬を支払っていませんので、直ちに支払うよう請求します」などと強めの文章を記載した書面を送付する方法や、何のアポイントメントもなく患者様のご自宅に伺うといった方法は控えた方が良く、まずは架電で交渉するという方法を選択するのが良いと思います。また、書面を送付する場合にも、最初から未払いであることを責めるような文章とすることは控えた方が良いです。
 もちろん、全く支払う気のない患者様に対して請求する場合には、最初から未払診療報酬を支払うよう請求書により督促しても差し支えありません。
 架電等で患者様と交渉する際には、支払を約束していただくだけでなく、支払う時期(期限)まで約束してもらうことが重要です。支払う時期(期限)を特定しないと、支払がなされなかった場合に架電や書面で請求するタイミングが分からなくなってしまうからです。また、来院している患者様であれば、いつ、いくらを支払うといった念書を書いてもらうことも検討してみてください。

1-2 法的手続による回収方法

 任意による回収が功を奏しなかった場合には、法的手続による回収を検討する必要があります。
 法的手続としては、支払督促や訴訟による方法が考えられます。
 未払診療報酬が低額である場合、通常訴訟を提起すると費用倒れになってしまうことも予想されます。そのため、権利関係(診療が何の問題もなく行われたこと)に争いがないのであれば、訴訟提起よりも費用がかからない支払督促や少額訴訟を申し立てるのが良いです。
 訴訟や支払督促によって患者様が支払う内容の判決等を得てもなお診療報酬が支払われない場合には、当該患者様の財産を差し押さえる等の強制執行を検討する必要があります。

1-3 保険者徴収制度

 保険診療における未収金の場合、保険者から未収金を徴収する制度として、保険者徴収制度(国民健康保険法42条2項等)があります。
 この制度は、「医療機関側が善良な管理者と同一の注意をもってその支払を受けることに努めたにもかかわらず、なお被保険者が当該一部負担金の全部又は一部を支払わないとき」に保険者が税金と同様の滞納処分手続により一部負担金を徴収するというものです。
 もっとも、厚生労働省の通達によると、保険者徴収制度の利用が望ましい基準として、次の事項が挙げられています。

  1. ①徴収の対象となる一部負担金の額が60万円を超えること、又は、当該患者の属する世帯が保険料の滞納処分を実施する状態にあること
  2. ②医療機関は少なくとも以下の対応を行っていること
    ⅰ 患者又は家族等(家族、身元保証人、代理人等)に対し、療養終了後、少なくとも1月に1回、電話等で支払を催告し、その記録を残していること
    ⅱ 療養終了後3月以内及び6月経過後に、内容証明郵便による督促状を送付し、その記録を残していること
    ⅲ 療養終了から6月経過後に、少なくとも1回自宅を訪問し、その記録を残していること(自宅まで通常の移動手段でおおむね30分以上かかる場合には、近隣の家族等を訪問するか、患者又は家族等と直接面会し、支払の催促を行い、その記録を残していること)

 歯科医院で一部負担金が60万円を超える患者様はほとんど見られませんし、60万円を超えたとしても上記のような厳格な基準を満たすことはかなり困難といえ、現実に同制度が利用されている事例はあまり見られません。

2 防止策

 上記のとおり、未払診療報酬が発生してしまうと、回収するまでに手間と時間がかかってしまいます。そのため、歯科医院側としては、未払診療報酬を生じさせないことが重要となります。
 防止策としては以下が挙げられます。

2-1 窓口での対応

 患者様と接触を持つ機会があるうちに診療報酬を支払ってもらうというのが一番効率的な防止策といえます。そのため、窓口の担当者の方がしっかりと保険証を確認し、患者様に積極的にお声がけをするなどのコミュニケーションをとることが重要です。
 また、予め治療内容や治療方法が決まっているのであれば、前払いの方法により未払いを防ぐという方法も考えられます。この場合、窓口に「予め治療内容が決まっている場合、治療費の前払いをお願いすることがあります」などの掲示をして、患者様に事前に知らせておくと良いでしょう。

2-2 クレジットカードでの支払

 診療報酬をクレジットカードで支払うことができるようにすれば、患者様が現金を持ち合わせていなくても、クレジットカード会社から支払を受けることができます。高額な診療報酬が発生する自由診療の場合などは、クレジットカードの利用を検討すべきといえます。
 また、クレジットカード決済を導入する場合には、クレジットカードを利用することができる金額の範囲を予め決めておき、掲示しておくことも検討すべきです。

2-3 連帯保証人

 患者様の診療報酬の支払につき、連帯保証人をつければ、仮に患者様が支払をしない場合でも連帯保証人に請求することができますし、患者様において連帯保証人に迷惑をかけさせられないという気持ちが働き、支払がなされる可能性が高くなります。
 この方法は、連帯保証人になる方と書面で連帯保証契約を締結する必要があるため(書面によらない連帯保証契約は効力を生じません(民法第446条2項))、上記2つの方法に比べてハードルが高いといえますが、高額な診療報酬が発生するような治療の場合には検討すべきといえます。

3 診療報酬を支払わない患者からの治療申し出

 診療報酬を支払わない患者様に対する対応として、未払診療報酬を支払うまで以後の治療を拒絶するということが考えられます。
 この点については、歯科医師が患者の診療を拒否できる場合とは?の2-1で説明しているとおり、未払いというだけで直ちに診療を拒否できるわけではなく、応招義務の観点での検討が必要になりますので、注意してください。

4 診療報酬請求権の時効

 現行の民法では、診療報酬請求権の消滅時効は3年ですが(民法第170条2号)、改正により「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」となりました。
 診療報酬債権は診療が終われば権利を行使でき、かつ歯科医院側において権利を行使できると知ったといえるため、改正民法における診療報酬請求権の消滅時効は、診療が終わった時から5年と考えて良いでしょう。
 改正民法は2020年4月1日から施行されるため、2020年3月31日までに発生した診療報酬請求権の消滅時効は3年、2020年4月1日以降に発生した診療報酬請求権の消滅時効は(原則)5年、と認識しておいてください。

5 まとめ

 未収金の増加は、患者様負担の公平性を害するとともに、歯科医院経営の妨げになってしまいます。未収金を減らして、健全な会計にしていきましょう。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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