自由診療における患者さまへの説明と同意

最近、インプラントや審美目的での矯正治療等、自由診療が増えてきています。自由診療は保険診療と異なり、患者様が治療費を全額負担するものですので、料金の説明等をしっかりと行う必要があります。
今回は、自由診療において特に注意が必要となる患者様への説明と同意について説明いたします。

1 保険診療における説明と同意の方法

保険診療における説明と同意の方法は、患者様への説明と同意①~保険診療の場合~で記載しているとおりです。
自由診療の場合、保険診療における説明と同意に加え、さらに、以下で説明するような点で注意が必要になります。

2 自由診療における説明責任

自由診療については、厚生労働省から「美容医療サービス等の自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱い等について」(平25.9.27医政発0927第1号)が出されており、以下の事項に関して特に留意すべきとされています。

  1. ①診療情報の提供に当たっては、品位を損ねる又はそのおそれがある情報及び方法を用いて説明してはならないこと。公の秩序若しくは善良の風俗に反する情報又は虚偽若しくは誇大な情報についても同様とすること。
  2. ②実施しようとする施術に要する費用等(当該費用によって受けることができる施術の回数や範囲、保険診療での実施の可否等も含む。)や当該施術に係る解約条件について、必ず当該施術前に、当該施術を受けようとする者に対して、丁寧に説明しなければならないこと。
  3. ③施術の有効性及び安全性に係る説明に当たっては、施術の効果の程度には個人差がある旨についても、必ず当該施術前に、当該施術を受けようとする者に対して、直接丁寧に説明しなければならないこと。
  4. ④即日施術の必要性が医学上認められない場合には、即日施術を強要すること等の行為は厳に慎まれるべきであること。やむを得ず即日施術を受けることを希望する者については、十分に当該即日施術の説明を行うとともに、当該即日施術を受けるかどうか熟慮するために十分な時間を設けた上で、当該即日施術を実施しなければならないこと。
  5. ⑤①から④までに掲げる取扱いのほか、指針に則らなければならないこと。

この指針は、主に美容医療サービスに向けられていますが、審美目的の矯正治療等の場合にはこの指針が妥当しますので、自由診療の際には上記指針に適合するような説明をする必要があるといえます。
以下では、厚生労働省から出されている「『美容医療サービス等の自由診療におけるインフォームド・コンセントの取扱いについて』に係るQ&A」に基づき、それぞれ具体的に説明していきます。

2-1 ①品位を損ねる情報及び方法等を用いた説明の禁止について

診療情報の提供に当たっては、品位を損ねる又はそのおそれがある情報及び方法、公の秩序若しくは善良の風俗に反する情報又は虚偽若しくは誇大な情報を用いて説明してはならないとされています。
具体例としては、以下が挙げられます。

  1. ・治療等の内容ではなく費用を全面に押し出すなど極端に強調した説明
  2. ・加工・修正した術前術後の写真等を使用した説明
  3. ・内容が虚偽のものである説明
  4. ・事実を不当に誇張していたり、人を誤認させたりする説明

2-2 ②施術費用や解約条件等の説明について

実施しようとする施術費用や解約条件については、当該費用によって受けることができる施術の内容、回数や範囲、保険診療での実施の可否、解約条件に関する規定等について、わかりやすく記載した説明書面を用いるなどした上で、当該施術を受けようとする者に対し、十分に時間をかけて説明し、承諾を得ることが必要であるとされています。
具体的な相談(苦情)として、以下の事例が挙げられているため、先生方としては、このような苦情を言われることのないよう、しっかりと説明する必要があります。

奥歯に2本分のインプラント治療をしたが、かぶせものは3本分請求された。治療後に歯科医師に確認したところ、インプラントを入れるための金具は2本しか入れていないが、咬合機能回復の為にかぶせものは延長ブリッジの形にしたため3本分で作製しており、3本分の費用が必要になる、との説明であったが、事前にその費用の説明を十分に受けていなかった。

2-3 ③施術の有効性及び安全性等の説明について

施術の効果の程度に個人差がある旨について、その他の事項を含め、以下のような事項を事前に丁寧に説明する必要があるとされています。

  1. ⅰ 効果とリスクについて
    ・施術の効果(効果の程度には個人差がある旨も含む)
    ・施術に伴うリスク(副作用、合併症・後遺症の有無・程度・発症確率、術中の痛みや苦痛等)
    ・効果とリスクのバランス
  2. ⅱ 類似の効果が期待できる複数の施術が存在する場合には、それぞれの効果・リスク・費用・期間を比較した選択肢等

具体的な相談として、「歯科医院でのホワイトニングの治療について、治療が始まると歯が染みるなどに関する説明が不十分なので、強引なので止めたい」等の事例が挙げられており、このような点に注意する必要があるといえます。

2-4 ④即日施術の必要性等について

即日施術の必要性については、当該施術を受けようとする者の希望等も踏まえ、医師により総合的に判断されるべきものですが、一般に、美容目的で行われる施術については、施術を受ける緊急性が低いと考えられ、即日施術を強要すること等の行為は厳に慎む必要があるとされています。

3 同意の方法

自由診療は、患者様が支払う金額も大きく、説明すべき注意事項も多くなりますので、別途治療内容や説明事項を記載した書面を用意し、直接説明したうえで署名をもらう等すべきであるといえます。また、患者様が支払うべき費用や支払方法についても説明し、同意をもらう必要があり、未払いのリスクを考えると、署名をもらって施術費用の支払約束について証拠化しておく必要があるといえます。
さらに、説明をし、納得いただいたうえで同意をもらったことについては、カルテにも記載しておくと良いです。

4 説明と同意に関する最近の裁判例(東京地裁平成28年4月28日判決)

ここで、説明義務に関して判示した最近の裁判例を紹介します。

4-1 事案の概要

原告(患者)は、平成23年7月24日、被告歯科医院を初診し、A歯科医師に対して前歯の差歯が曲がってしまったことを訴えた。その際、A歯科医師から6本まとめて治療すると割引が受けられるキャンペーンがあることを紹介され、同年8月1日、同キャンペーンを利用して、上記前歯を含む6本の差歯治療をすることにした。
A歯科医師は、平成23年8月1日から同年12月9日にかけて差歯治療を行ったが、その際、5本の歯については連結して成形したクラウンを使用して治療を行ったが、原告はこれに不満を述べた。その結果、担当医師が変更となり、その後の治療は無料で行われた。
その後、原告は一連の治療によって歯肉炎や差歯の脱落を診断され、被告歯科医院に対して損害賠償を請求した。
争点は医療過誤の有無等多岐にわたるが、説明義務に関しては、A歯科医師は、上記治療の際、歯をきれいに見せるため及び上記5本の連結を安定されるために天然歯である左上4番の歯を削ったと説明したが、原告はそのような説明は受けていないとして争った。

4-2 判決要旨

裁判所は、以下のとおり判断して、説明義務違反を認めました(下線部は筆者)。

 一般的に、医師又は歯科医師は患者に対して実施予定の医療行為の内容、危険性及び予後等について説明すべき義務を負っているが、審美目的の医療行為については、医学的必要性や緊急性が乏しく、患者の主観的願望を満足させるために行われるものであることから、医師又は歯科医師は患者に対して通常よりも丁寧に説明し、患者が当該医療行為を受けるかについて十分な情報を基に熟慮の上決断できるように配慮すべき義務を負うと解される。特に、患者に当該医療行為を提案したその日のうちにこれを実施するという、いわゆる即日施術については、それ自体が直ちに違法と評価されるわけではないものの、時間的な余裕がないことから、必要な説明及び配慮が尽くされていないことが少なくないため、そのような時間的な余裕のない状況にあってもなお、当該医療行為の内容等に応じて、患者の適切な自己決定が可能な程度の説明が尽くされたといえるだけの事情があるか否かについて、通常よりも厳格に評価するのが相当である。
本件についてみると、A歯科医師の行った右上2番ないし左上4番の差し歯治療は、左上4番に限ってみれば、医学的には治療する必要のない天然歯を人工の差し歯に替える点で審美目的の医療行為に当たり、治療対象として提案されたその日のうちに支台歯として形成するために削っている点で即日施術にも当たると解される。そして、上記治療が健康な天然歯を削ることを内容とするものであることからすれば、A歯科医師は、原告が上記治療を受けるか否かを慎重に判断することができるように配慮することが求められていたというべきである。そうすると、A歯科医師としては、原告に対し、左上4番の差し歯治療を行うに当たり、左上4番を治療の対象に加える必要性及びその効果に加え、左上4番は医学的には治療する必要のない天然歯であり、一度削ってしまえば二度と元に戻すことはできなくなることなどについて、原告が上記治療を受けるか否かを即日であっても適切に判断することができる程度の丁寧な説明をすべき義務を負っていたと解される。しかるに、A歯科医師が左上4番の差し歯治療を提案した平成23年8月1日の診療録には説明に関する記載がなく、原告が同日に署名指印した治療承諾書にも「私は、担当医の説明を十分に理解し、納得した上で治療を行うことを承諾致します。」という程度の抽象的な記載しかないことや、後記(5)のとおり、A歯科医師は6本キャンペーンを適用するために、既にブリッジで連結されていることが判明した右上3番の歯に代えて左上4番の差し歯治療を提案したと認められることからすれば、A歯科医師は原告に対して上記説明義務を負う各事項について十分な説明をしなかったと認めることができる。

4-3 判決の注目ポイント

上記裁判例の注目すべきポイントは、まず、歯科医院側は、審美目的の医療行為について、通常の医療行為よりも丁寧に患者様に説明すべき義務があるとしている点です。
また、即日施術については説明の程度を通常の説明よりも厳格に評価するとしている点も注目すべきポイントといえます。実際に、承諾書に署名していても説明義務違反が認められている点からも、厳格に評価されていることが分かります。
このように、審美目的等の自由診療においては、より丁寧な説明が求められることが、裁判例でも示されています。

5 まとめ

以上から、自由診療における説明・同意は、保険診療よりも気を付けるべき点が多いと言えます。
トラブルを未然に防ぐためにも、患者様への説明と同意をしっかり行ってください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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