矯正治療を行う際の留意点
歯列矯正のうち、保険診療の対象となるのは口唇裂、口蓋裂や顎変形症等の「疾患」に対する治療のみであり、単に歯並びが悪いなどの「疾患」とまでいえないものについては、審美的な治療として、患者様が治療費を全額負担する自由診療で行う必要があります。
そして、矯正治療は、患者様の満足のいく結果にならなかったり、追加費用がかかってしまったりする場合等に、患者様とのトラブルに発展してしまう可能性が高いといえます。
そうすると、歯科医院側としては、トラブルを未然に防ぐ方法や、トラブルになった場合の対策を考えておく必要があります。今回は、矯正治療を行う際の留意点についてご説明いたします。
目次
1 矯正治療の流れ
一般的に、矯正治療は以下のような流れで行われます。
初診から保定治療の状態になるまで、2年から3年程度かかると説明されることが多いですが、術前処置で抜歯や虫歯治療が必要な場合や、患者様の年齢、口腔内の状況によってかなり幅があり、5年以上かかることもあります。
2 矯正治療の特徴
矯正治療の特徴としては以下が挙げられます。
- ・自由診療の場合が多い(患者様負担額が大きい)。
- ・治療期間が長い。
- ・日々のブラッシング等、患者様本人の協力が不可欠。
歯科医院側としては、これらの点に留意して、説明、契約、治療を行っていく必要があります。
3 矯正治療を行う前に説明しておくべき事項
トラブルに発展してしまうケースの中で、患者様のご主張で多いものは、「説明されていない」「説明が足りていない」というものです。歯科医院側としては、このようなトラブルを避けるため、説明義務を十分に果たす必要があるといえます。以下で患者様に対して説明を行ううえで注意すべき点を説明します。
3-1 治療計画の説明
矯正治療を行う患者様の多くは、はじめて矯正治療を行うという方になります。そのため、どのような流れでどのような治療が行われるのかについて、初診の段階で図や書面を用いるなどして全体的な流れをしっかりと説明する必要があります。
また、説明をする際には、矯正治療のメリットだけでなく、リスクをしっかりと伝える必要があります。患者様の中には、矯正治療を行えば必ず自分の理想の歯並びになると思われている方もいるので、矯正治療は結果を保証するものではないことをしっかりと説明すべきです。
さらに、契約をする場合には、説明した当日に契約を締結するという、いわゆる即日契約は避けるべきです。即日施術の必要性がない限り、説明から契約締結まで患者様に検討の時間を与えないと、後になって、歯科医院側が説明義務を果たしていないとして説明義務違反を問われる可能性があるからです。
3-2 個々の治療の説明
また、初診の段階で全体的な治療の流れを説明するだけでなく、個々の治療の際に、現在全体的な治療のどの段階を行っているのか、どのような治療をするのかについても説明する必要があります。
3-3 費用の説明
初診の際に、患者様が負担することとなる費用の見込みについても説明する必要があります。その際、費用の内訳についても説明すべきといえます
また、契約を締結する際には、以下で述べる中途解約の際の費用負担についても説明しておかなければなりません。
3-4 中途解約の際の治療費の清算
先生方からご相談の多い事項として、治療費を前払い式にしていた場合に、歯科医院側の責任ではない事情によって中途解約となった際、どのような処理をすべきかというものがあります。
この点、患者様との診療契約の法的性質は準委任(民法第656条)であり、受任者(歯科医院側)の責めに帰することができない事由によって中途解約がなされた場合には、すでになされた履行(治療)の割合に応じて報酬請求権が発生することになります(民法第648条3項)。
そうすると、中途解約の際には、原則として、前払いしてもらった金額から、それまでに要した治療費の対価の金額を差し引いた金額を返還する必要があります。中途解約の場合に返金しないという特約を契約書に入れることも考えられますが、その特約が有効か否かについては見解が分かれているので、特約があるからといって一切返金しないという対応ができるか否かについては検討を要します。
歯科医院側としては、治療のどの段階でどれくらいの費用が見込まれるのかについて説明したうえ、段階に応じた中途解約の処理を契約書に明記しておくべきでしょう。また、説明の段階で、治療の状況によっては追加費用が生じる可能性や治療計画にずれがあることもしっかりと説明しておくべきです。
4 同意の方法
上記の説明に関連して、患者様が歯科医院側の説明に同意をしたか否かということもしばしば問題になります。
同意の方法については歯科医が知っておくべき患者様への説明と同意②~自由診療の場合 3で記載していますが、治療内容や説明事項を記載した書面を用意し、当該説明に同意のうえ施術をすることについて書面で同意を得るべきですし、同意をもらったことについてはカルテにも記載しておくべきです。
5 まとめ
矯正治療のトラブル対策をしっかりして、治療に専念できる環境を整えましょう。
- 歯科における初診・再診料の判断と留意点~個別指導対策③~ - 2019年6月25日
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