訪問・在宅診療サポートビジネスと療養担当規則の関係

 歯科医師は、営利を目的として治療行為を行っているわけではなく、患者の求めに応じて、非営利を前提に治療行為を行います(医療法7条6項参照)。
 以前は、訪問・在宅診療において、患者紹介ビジネスを運営する会社が多くありましたが、保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下「療養担当規則」といいます)の改正により、このようなビジネスが禁止になったというニュースを耳にします。
 一方で、実質的に患者を紹介しつつ、訪問・在宅診療のサポート会社として営業を続けている会社もあり、その関係性に疑問を持たれている先生方もいるのではないかと思います。
 そこで、今回は、上記に関する療養担当規則の条項の解説とともに、訪問・在宅診療サポートビジネスの適法性について説明いたします。

1 患者紹介ビジネスの背景

 患者紹介ビジネスに法的な定義があるわけではありませんが、本記事においては、患者紹介ビジネスとは、会社が、高齢者施設に入居する方や在宅介護を受けている方のうち、訪問・在宅診療を必要としている方を、患者として歯科医院等に有償であっせんするビジネス(患者紹介の対価として報酬を受け取るビジネス)と定義します。
 保険医療における訪問・在宅診療の保険点数(保険料の算定の基礎となるもの)が一般の診療の保険点数に比べて高いことが、患者紹介ビジネスを生む背景となっており、高齢者施設等に対する過剰な営業等が社会問題にもなっていました。
 なお、言うまでもなく、訪問・在宅診療自体は、医療を国民に届けるという意味で社会的に非常に意義のある行為です。訪問診療や在宅診療を本当に必要とする方の中には、そのような制度を知らない方もいるため、私見ですが、ビジネスであったとしても、そのような制度を紹介することにより、医療を提供できる場を広めること自体は、社会的に意義のある行為であると考えます。

2 療養担当規則の改正

 患者紹介ビジネスを規制するものとして、保険医療機関及び保険医療養担当規則等の一部を改正する省令(平成26年厚生労働省令第17号)により、療養担当規則第2条の4の2第2項で以下の規定が追加されました。

(経済上の利益の提供による誘引の禁止)
第2条の4の2
1 (省略)
2 保険医療機関は、事業者又はその従業員に対して、患者を紹介する対価として金品を提供することその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益を提供することにより、患者が自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならない。

 以下で、条項の解釈を説明します。

2-1 趣旨

上記条項で、経済上の利益の提供による誘引を禁止する趣旨は、以下のとおりです(平成26年7月10日付事務連絡の別添5参照)。

  1. ①日本において、患者には(保険)医療機関を自由に選択する権利があるところ(フリーアクセス)、経済上の利益の提供による誘引を禁止しなければ、特定の保険医療機関等への患者誘導につながる蓋然性が高く、保険医療機関を自由に選択できる環境を損なうおそれがある(患者による保険医療機関の自由な選択の確保)
  2. ②患者紹介ビジネスは患者を経済上の取引の対象としており、保険医療機関等による過剰な診療等につながり、保険診療そのものや保険財源の効果的・効率的な活用に対する国民の信頼を損なうおそれがある(過剰診療惹起の防止、保険事業の健全な運営の確保)

2-2 行政解釈

 「保険医療機関及び保険医療養担当規則等の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(平成26年3月5日保医発0305第10)では、以下の行政解釈が示されています。

  1. ①金品を提供し、患者の誘引を行っている場合とは、以下の例である。
     事業者に対して診療報酬の額に応じた所定の金額を支払うこと等により、特定の同一建物居住者の紹介を独占的に受けて、それらの者に対して、一律に訪問診療を行っている場合。
     なお、患者の紹介は同一建物居住者以外の患者(自宅の患者)に関して行われる場合もある。
  2. ②患者の誘引が行われているか否かについては、保険医療機関が有する診療録に添付された訪問診療の同意書、診療時間(開始時刻及び終了時刻)、診療場所又は診療人数等を参考とする。
  3. ③金品の提供を受ける事業者には、患者の紹介を行う株式会社等の第三者だけでなく、①の同一建物を自ら運営する事業者やその従業員も含まれる。
  4. ④金品の提供は、保険医療機関と事業者の間で契約書に基づき明示的に行われる場合のほか、医療機関の土地賃借料に金額が上乗せされて提供される場合等、様々な方法により行われる場合がある。

2-3 疑義解釈

 さらに、平成26年7月10日付事務連絡の別添5では、保険医療機関が、事業者又はその従業員に対して、患者紹介の対価として、経済上の利益の提供を行っている否かの判断に関し、疑義解釈として、以下が挙げられています。

  1. ・患者紹介とは、保険医療機関等と患者を引き合わせることであり、保険医療機関等に患者の情報を伝え、患者への接触の機会を与えること、患者に保険医療機関等の情報を伝え、患者の申出に応じて、保険医療機関等と患者を引き合わせること等も含まれる。患者紹介の対象には、集合住宅・施設の入居者だけでなく、戸建て住宅の居住者もなりうる。
  2. ・経済上の利益とは、金銭、物品、便益、労務、饗応等を指すものであり、商品又は労務を通常の価格よりも安く購入できる利益も含まれる。経済上の利益の提供を受ける者としては、患者紹介を行う仲介業者又はその従業者、患者が入居する集合住宅・施設の事業者又はその従業者等が考えられる。
  3. 患者紹介を受けており、保険医療機関等が支払っている委託料・賃借料について、診療報酬の一定割合と認定されている場合は、実質的に、患者紹介の対価として支払われているものと考えられる。同様に、委託料・賃借料について、患者数に応じて設定されている場合は、業務委託・賃借の費用と患者数が関係しており、社会通念上合理的な計算根拠であること等が示される必要がある。

2-4 訪問・在宅医療のサポートビジネスは違法か?

 上記のように、患者紹介の対価として報酬が付与される形態の患者紹介ビジネスは、療養担当規則で禁止されます。
 一方、患者紹介の対価ではなく、訪問診療の広報、施設との連絡・調整や訪問の際の運転業務等、訪問・在宅診療サポートの業務委託料として会社が医療機関等から金銭を受け取っているような形態の訪問・在宅診療サポートビジネスであれば、療養担当規則に違反するとまではいえません。
 もっとも、上記解釈では、患者紹介の対価を受け取っているか否かの判断は、報酬名目等の形式のみならず、報酬内容が対価性を有しているか否かの観点から実質的にみるとされているため、業務委託料等として報酬を受け取っていた場合でも、委託料等が、当該地域における通常の委託料等に比して高くないこと及び社会通念上合理的な計算根拠で算出されたものであることが必要で、合理的な計算根拠を示せない場合には、患者紹介の対価が上乗せされていると判断されることもあるので注意が必要です。

3 療養担当規則に違反した場合の罰則等

 療養担当規則に違反した場合、保健医療機関の指定取消し又は保険医登録の取消し等の行政処分の対象となる可能性があります。
 患者紹介ビジネスを運営する会社ではなく、患者紹介ビジネスを利用した歯科医院に罰則が生じるという点に注意が必要です。

4 まとめ

 上記のとおり、療養担当規則の改正により、患者紹介ビジネスは禁止とされ、訪問・在宅診療サポートビジネスであったとしても同規則に違反していると判断される可能性があるため、同ビジネスを利用するに際しては、療養担当規則に違反するような契約・運用となっていないかどうかにつき、注意することが必要です。
 患者様の求めに応じた治療が原則ということを心掛け、利用する際には療養担当規則をはじめとする法令を遵守するようにしてください。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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