歯科医院(クリニック)の名称をつける際に注意すべき点とは?

これから歯科医院を開業する先生方は、歯科医院(クリニック)の名称を検討されていると思います。

患者さまに覚えてもらいやすく、気軽に来院していただけるような名称をつけたいというお気持ちもあるかと思いますが、どのような名称でも良いというわけではありません。

また、歯科医院の数が増えている現状のもとでは、他の医院と似ている名称にしない等、名称のつけ方にも注意が必要です。

今回は、歯科医院の名称をつける際に注意すべき点について説明しています。

1 「診療所」なのに「病院」とつけてはいけない

医療法上、「病院」と「診療所」は明確に区別されています(医療法1条の5)。
簡単にいえば、「病院」とは、20人以上の患者さまを入院させるための施設を有するものをいい、「診療所」とは、患者さまを入院させるための施設を有しないもの又は19人以下の患者さまを入院させるための施設を有するものをいいます。

歯科医院で入院させるための施設を有するものはほとんどありませんので、「診療所」に該当する場合が大半といえます。

「病院」と「診療所」が明確に区別されている関係上、医療法では、「診療所」にもかかわらず、「病院」や「病院」と間違われるような紛らわしい名称をつけることを禁止しています(医療法3条2項)。

つまり、「診療所」に該当する歯科医院は、「~病院」という名称をつけてはいけないということになります。

これに違反してしまった場合、20万円以下の罰金に処せられるとされていますので、注意してください。

2 「ナンバーワン歯科医院」、「無痛治療歯科医院」も禁止

歯科医院をはじめとする医療機関の名称には、広告規制が課されています。
広告規制についての詳細は、医療広告ガイドラインに記載されています。広告規制の内容について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてチェックしてみてください。

歯科医院の名称も広告に該当するため、医療広告ガイドラインでは、名称が「虚偽にわたるもの」「他の医療機関と比較して優良であることを示すもの」「事実を不当に誇張して表現していたり、人を誤認させるもの」等を禁止しています。

具体的には、以下のような名称は、禁止されることになります。

  1. ・大学の附属でもないのに「~大学付属歯科医院」という名称をつけること
    →虚偽にわたるものとして禁止
  2. ・「ナンバーワン歯科医院」
    →他の医療機関と比較して優良であることを示すものとして禁止
  3. ・無痛治療歯科医院
    →事実を不当に誇張して表現したり、人を誤認させるものとして禁止

虚偽にわたる名称をつけた場合には、6月以上の懲役又は30万円以下の罰金が、それ以外の広告規制に違反した場合には行政指導の対象となり、これに従わなかった場合には上記と同様の罰則が課される可能性があります。

3 競合する既存の医院と似ている名称をつけてはいけない

不正競争防止法では、広く一般に知られている他人の氏名や商号などの表示と同一又は類似のものを使用して、他人の営業と混同を生じさせる行為を禁止しています(不正競争防止法2条1項1号)。

たとえば、「東京医科歯科医院」というような名称は、は同名の医科歯科大学が営業しているものと混同を生じさせるものとして、不正競争防止法に違反するのではないかと考えます。

これに違反してしまった場合、混同を生じさせると考えている歯科医院等からの訴えで、名称の使用を差し止められ、損害賠償義務を負う可能性があるので、注意してください。

4 著名な商号等を使った名称をつけてはいけない

不正競争防止法では、著名性のある他人の氏名、商号などの表示と同一または類似のものを使用する行為も禁止しています(不正競争防止法2条1項2号)。
また、著名な商号等は商標を取得している場合もあり、商標法上も商標権者の許可なく使用することが禁止されています。

たとえば、googleとは何の関係もないにもかかわらず、「google歯科医院」というような名称を使用することは、著名性のある企業の商号を使用するものとして、上記法律に違反するものと考えます。(商標権侵害となる可能性も高いといえます)。

これに違反すると、同企業からの訴えで、名称の使用を差し止められ、さらに損害賠償義務を負う可能性があります。

5 営利法人が関与している誤解を与えるおそれのある名称をつけてはならない

歯科医院をはじめとする医療機関は、営利を目的として活動してはいけません。
そのようなことから、営利法人経営の医療機関は、専ら当該法人の職員の福利厚生を目的とするものを除き、許可しないものとされています。

そして、「医療機関の非営利性の確認と名称について(H10.1.9総28・指63)」では、医療機関の開設者が営利法人から土地や建物を賃借している場合等、営利法人との間に関係がある場合に、当該営利法人の名称を歯科医院に用いることは、当該営利法人が当該医療機関を経営しているかのような誤解を与えるおそれとして、望ましくないものとしています。

つまり、営利法人と関係がある場合に、その法人が関与している誤解を与えるおそれのある名称を使用してはいけないということになります。

6 地域ごとの自主基準

地方自治体によっては、自主基準を定め、開業の許可の際に指導することがあります。

たとえば、京都市では、原則として、診療所の名称には「開設者の氏名を付けたうえで」次の範囲内の名称とするよう、指導しています。

  1. ①開設者の氏名(法人の場合は法人名)
  2. ②必要に応じて診療科名(広告可能なものに限る)
  3. ③診療所、医院又はクリニック

これは、あくまでも自主基準であり、交渉の余地があるものと言えますが、交渉に時間がかかり、開業が予定どおりおこなえなくなることもありますので、事前に届け出をおこなう地方自治体に相談されることをおすすめします。

7 まとめ

歯科医院の名称には、意外と規制が多いことをお分かりいただけましたでしょうか。
上記をまとめると、歯科医院の名称をつける際に気を付けるべき事項は、以下のとおりとなります。

  1. ・使用を制限される名称
  2. ・「~病院」という名称(「診療所」の場合)
  3. ・広告規制に抵触する名称
  4. ・競合する既存の医院と似ている名称
  5. ・著名な商号等を使った名称
  6. ・営利法人が関与している誤解を与えるおそれのある名称
  7. ・地域ごとの自主基準に反する名称

歯科医院の開業等に関し、参考にしていただけたのであれば幸いです。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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