医療法人にすることのメリット・デメリット
厚生労働省の統計によれば、平成29年における医療法人の総数は5万3000法人となっており、その数は、下図のとおり、年々増えています。
最近では、事業承継に伴い、医療法人化する歯科医院も増えています。歯科医院を運営する先生方の中には、医療法人化を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、歯科医院を医療法人にすることのメリット・デメリットを説明いたします。
目次
1 医療法人とは
医療法人とは、病院、医師・歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設又は介護医療院を開設することを目的として設立される法人をいいます(医療法39条)。
2 医療法人のメリット
医療法人のメリットとしては、主に次の5つが挙げられます。
- ①医療機関の永続性が確保できる
- ②支店を開設できる
- ③事業承継が簡易
- ④医療機関の債務について医師個人の責任が限定される
- ⑤税金の関係で有利になる点がある
以下で個々のメリットについて説明します。
2-1 医療機関の永続性確保
先生個人が運営する歯科医院は、法的には先生個人に権利義務が帰属するため、当該個人がいなくなってしまった場合、消滅することになります。
他方、医療法人は、権利義務が法人に帰属し、法人は解散等の手続をとらない限り永続的に存在します。
このように、医療法人の方が医療機関としての永続性を確保するのに適しているといえます。
2-2 支店の開設
先生個人が歯科医院を運営している場合、原則として、先生個人が複数の歯科医院の管理者になることはできません(医療法12条)。
これに対して、医療法人は分院として支店を開設することができるので、複数の歯科医院を開設することができます。
歯科医院を拡大したいと考えている先生方にとって、支店の開設はメリットといえます。
2-3 事業承継
先生個人が歯科医院を運営している場合、子や第三者に事業承継を行う際には、歯科医院の財産を引き継がせるための事業譲渡契約書を作成したり、従業員や債権者との契約を切り替えるような交渉をしたりしなければなりません。
これに対して、医療法人の場合、出資持分や理事長個人名義の財産の移転等に別途手続が必要になるものの、事業の承継自体は代表者たる理事長を交代することで足りるため、手続自体は簡易であるといえます。
2-4 医療機関の債務
上記のとおり、先生個人が運営する歯科医院は、先生個人に権利義務が帰属するため、歯科医院の債務は全て先生個人が負担することになります。
他方、医療法人の場合、医療法人のみに帰属する債務について、先生方は出資金を限度として責任を負うということになり、責任の範囲が限定されます。もっとも、高額な医療機器のリース契約や歯科医院の土地建物の賃貸借契約は理事長が連帯保証しなければならない場合も多く、その場合には責任が限定しないことになります。
2-5 税金関係
医療法人化した場合、役員の退職金など、個人では経費として計上できない支出を損金処理することができます。
また、所得金額にもよりますが、医療法人の最高税率(平成30年4月1日以後に開始する事業年度においては23.2パーセント)は個人における所得税の最高税率(45パーセント)よりも低く、この点でもメリットがあるといえます。
もっとも、次で述べるとおり、医療法人化することによって税制上不利になる点もあるため、医療法人化するにあたってはこの点をしっかりと検討する必要があります。
3 医療法人のデメリット
医療法人のデメリットとしては、主に次の4つが挙げられます。
- ①手続きが煩雑
- ②利益配分が禁止される
- ③社会保険料を負担しなければならない
- ④税金の関係で不利になる点がある
以下で個々のデメリットについて説明します。
3-1 各手続き
医療法人を設立するためには、定款の作成や役員の選任、登記手続など、行わなければならない手続がいくつかあり、当該手続きのために時間を割かなければならないため、この点はデメリットといえます。
また、事業年度ごとに規定の書式に従った決算届の提出が必要であることや、関係省庁に提出する書類も増えることから、設立以降も書類作成等のために時間を割く必要があります。
3-2 利益配分の禁止
医療法人は非営利を原則としていることから、利益が出たとしても余剰金を役員に分配することはできず、適正給料以外の金銭は原則として受け取れません。
利益が出た場合には次年度の給料を増やせば良いという考えもありますが、個人で運営する場合に比べて即座に自由に使える金銭が少なくなるという意味で、この点は事実上デメリットといえるでしょう。
3-3 社会保険料の負担
労働保険のみに加入していた歯科医院が医療法人化した場合、厚生年金への加入が強制となるため、法人負担分の社会保険料が増えることになります。
労働保険のみに加入している歯科医院にとって、この点はデメリットといえます。
3-4 税金関係
医療法人化した場合、原則として役員の給与が損金算入されないことや、交際費に上限があることなど、税制上不利になる点があります。
4 まとめ
以上からすると、以下のような場合には、医療法人化を検討してみても良いと考えます。
- ・歯科医院の名称を永続的に残したい
- ・子又は第三者に歯科医院を承継させたい
- ・歯科医院を複数運営したい
- ・税金対策で何かできることがあるかを考えたい
どんな制度にもメリット・デメリットはあります。先生方の歯科医院の運営状況に応じて、医療法人化したほうが良いかどうかを検討してみてください。
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