第三者へ歯科医院を承継させる場合の注意点とは?
以前、親から子への歯科医院の承継の記事を掲載しましたが、最近では、親から子への承継のみならず、第三者に歯科医院を承継してもらいたいというご相談も増えています。
歯科医院を第三者に承継させる場合、子への承継とは別の観点からの注意が必要となります。
そこで、今回は、第三者へ歯科医院を事業承継させる場合の注意点について説明いたします。
目次
1 第三者への事業承継の流れ
第三者への事業承継の大まかな流れも、親から子への事業承継の流れと同様で、①承継条件を合意し、②合意に基づき承継手続を実行していくということになります。
もっとも、第三者への事業承継の場合は、①承継条件の合意の過程でいくつか注意すべき点があります。
また、その過程における注意の程度や手続に関する注意点は、同じ第三者といっても、勤務医の場合と勤務医以外の者の場合とで少し異なります。
以下では、第三者への事業承継を行う際に注意すべき点に加え、勤務医に事業承継させる場合の違いについても説明いたします。
2 第三者への事業承継の注意点
歯科医院を第三者へ事業承継させる場合に注意すべき主な点は、以下に述べるとおりです。
2-1 保険医療機関指定の遡及
親から子への事業承継と異なり、第三者に歯科医院を承継させる場合、原則として保険医療機関指定の遡及は行われません。
もっとも、当該歯科医院において一定期間勤務している勤務医が承継する場合、遡及が認められるケースがあります。
保険診療を多く扱っている歯科医院の場合、保険医療機関指定の遡及が行われるかどうかは非常に重要な問題ですので、勤務医を含めた第三者に事業承継させる場合には、その点をしっかりと検討する必要があります。
2-2 承継条件の事前協議
第三者に事業を承継させる場合には、その人となりを詳しく知らないことも多いため、契約書を締結する前に、従業員の引継ぎ等、承継の条件を綿密に協議することが重要です。
勤務医への承継の場合には、その性格等を知っているという先生方も多いとは思いますが、勤務医であっても第三者であることに違いはないので、後の争いを防止するために、綿密に協議しておくに越したことはないといえます。
2-3 秘密保持契約の締結及び事前開示
事業を譲り受ける側にとっては、譲り受ける予定の歯科医院の資産及び負債を知ってから判断する必要がある一方、譲り渡す側にとっては、契約を締結する前の段階でどこまで情報を開示して良いのか迷うこともあると思います。
そのため、事前に資料開示に関する秘密保持契約を締結し、開示する情報に関する秘密を漏洩しないよう合意することが重要となります。
2-4 契約書の作成
親から子への承継とは異なり、第三者に歯科医院を承継させる場合、対価を支払って承継させることが通常といえます。
そうすると、対価の支払の合意や、当該対価で引き継ぐ財産・契約関係の特定を詳細に行う必要があり、後の争いを防止するため、上記事項を定めた契約書を作成することが必須といえます。
契約書の作成において留意すべき事項は概要以下のとおりです。
- ・引き継ぐべき財産(不動産、リース物件、備品等)、契約関係(債権債務・従業員との契約等)を特定する
- ・事業譲渡の対価及び支払方法を定めておく
- ・事業承継の前後における診療等に関する責任関係を明確にしておく
- ・万が一に備えて、解除の条件や解除に伴う損害賠償の条項を整備しておく
- ・その他、歯科医院の名称等を引き継がせたいのであればその旨を明示的に合意しておく
2-5 医療法人化の検討
前述のとおり、第三者に事業を承継させる場合、原則として保険医療機関指定の遡及は行われませんので、その点に注意が必要です。
このような事態を防ぐため、歯科医院を医療法人化することを検討に入れても良いと考えます。
医療法人にしておけば、その持ち分を移転させることによって実質的な運営主体は変わる一方、保険医療機関としては変わりがないため、保険医療機関のまま事業承継と同じ効果が生じさせることができます。
もっとも、医療法人にすることには、手続きの煩雑さ等のデメリットもあるので、その点はしっかりと検討する必要があります。医療法人にすることのメリット・デメリットについては、以前に掲載した医療法人にすることのメリット・デメリットを参照していただければと思います。
3 まとめ
歯科医師年齢が高齢化していく中で、歯科医院の存続を考えた場合には、子への承継だけでなく、第三者への承継を視野に入れる必要があります。
注意すべき点を中心に検討し、承継する側・される側双方にとって利益となるものを目指しましょう。
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