歯科医院において作成・保存義務のある書類とその注意点は?
歯科医師は、法令により、作成・保存義務のある書類等が決まっており、同義務に違反した場合には罰則等が定められていますので、先生方としては、作成・保存義務をしっかりと遵守する必要があります。
今回は、歯科医院において作成・保存しておかなければならない書類と作成・保存の際の留意点について説明いたします。
目次
1 必ず作成・保存しておかなければならない書類等
歯科診療を行う際に必ず作成・保存しておかなければならない書類は、歯科診療録(カルテ)です(歯科医師法23条)。
その保存期間は5年とされています。この義務に違反した場合には、50万円以下の罰則に処せられますので(歯科医師法31条の2第1号)、注意が必要です。
なお、歯科診療録は、書面ではなく、いわゆる電子カルテでも良いとされており、電子カルテを作成した場合には電子媒体においてのみ作成・保存しておけば良い(紙媒体で保存しておく必要はない)とされています。電子カルテの作成・保存上の留意点については、下記の3-1で説明します。
2 作成した場合に保存しておかなければならない書類等
作成した場合に保存しておかなければならない書類はいくつかあり、それぞれ保存期間及び根拠法令は、以下の表のとおりです。
3 作成・保存の際に留意しておくべき事項
歯科診療録を含む保存義務のある上記書類のうち、作成・保存の際に留意しておくべき事項を以下で説明します。
3-1 電子カルテ
電子媒体で歯科診療録等を作成・保存する場合、保存方法は電子媒体においてのみ保存しておけば足りるとされていますが、保存の条件として、①情報の内容を必要に応じて肉眼で見読可能かつ書面で表示できるような状態にしておくこと(見読性の確保)、②作成責任の所在を明らかにし、保存期間中における故意又は過失による改変や消去を防止すること(真正性の確保)、保存期間中に復元可能な状態で保存すること(保存性の確保)が必要となります。
また、電子媒体での保存については、ウイルス感染等によって個人情報の流出が起こると重大な問題に発展してしまうので、セキュリティ対策はしっかりと行っていく必要があるといえます。
3-2 エックス線写真
エックス線写真の保存期間は2年とされていますが、エックス線写真は患者様の口腔内の客観的状態を証明することができることから、歯科診療録とともに証拠開示で求められることが多く、歯科医院側にとって有利な証拠となることもあるため、歯科診療録と同じ期間くらいは保存しておいた方が良いといえます。
3-3 処方せん
処方せんについても平成28年の医療法改正により、電子媒体での作成・保存が可能になりました。保存方法の注意点については上記3-1と同様です。
3-4 スタディモデル
スタディモデル(診断模型)は、一連の治療が終了した日の属する月の初日から起算して3年間が保存期間となります。
もっとも、スタディモデルを正面、左右側面、上下歯列の咬合面からそれぞれ写真撮影し、その写真を歯科診療録に添付した場合には、スタディモデル自体は3か月保存しておけば良いとされています。
なお、作業模型はスタディモデルとはみなされないので、注意してください。
3-5 その他診療に関する文書等
その他診療に関する文書等とは、保険診療上、患者様に指導料や情報提供料等として診療報酬を請求するために作成される文書を指します。
例えば、歯科口腔衛生指導にかかる文書、歯科疾患総合指導にかかる文書、歯周疾患指導管理にかかる文書、歯科衛生実地指導にかかる文書、補綴治療計画の説明にかかる文書、歯科矯正管理にかかる文書等が挙げられます。
3-6 民法の消滅時効期間との関係
患者様から治療行為に過誤があったとして損害賠償請求等がなされる場合、その請求権の時効は10年です。
そのため、医療過誤として患者様から訴えられた場合に備えて、消滅時効期間が経過するまでは保存しておくという対応もあり得るところといえます。
4 まとめ
作成・保存義務のある書類は、後に裁判になった場合に証拠提出を求められることが多いので、作成及び保存には十分に注意してください。
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