労働契約書(雇用契約書)のトラブルと作成のポイント~前編

 先生方は新しくスタッフを採用する際に、労働契約書(雇用契約書)を作成していますか?患者サービスに力を入れる歯科医院は多くとも、スタッフの労働環境までしっかり整備しているところが少ないのが現状です。
 今回はこの「労働契約書」に関する規定や「労働条件通知書」との違い、労働契約書が無いことによる落とし穴をご紹介します。

1 労働契約書とは

 労働契約書とは、雇用主(使用者)と労働者の間で労働条件を明確にするために交わす契約書で、双方の署名捺印が必要なものです。そんなに形式ばったものは作っていない、作っていても正社員のみ、という歯科医院も多いのではないでしょうか。
 しかし、以前の記事でもご紹介した通り、この労働契約書をしっかりと作成しておくことで、後のトラブルを防ぐことができるのです。

2 労働契約書を作る意味

2-1 作らないと法律違反?

 実は法律上は、労働契約書(雇用契約書)の作成は必須ではありません。労働契約法には「労働契約は、(中略) 労働者及び使用者が合意することによって成立する」「労働契約の内容 (中略) について、できる限り書面により確認するものとする」との記載があるのみで、書面でなければならないという規定は無いのです。

2-2 労働条件通知書

 一方、「労働条件通知書」というものは、法律で作成が必須とされています。これは労働基準法第15条の「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。(以下省略)」との規定が根拠となっています。また、労働条件通知書を交付していない場合は罰則として30万円、相手がパートやアルバイトの場合はプラス10万円(計40万円)と規定されています。

2-3 労働契約書は合意の証

 では、”義務”である「労働条件通知書」を作成すれば、”任意”の「労働契約書」は不要なのでしょうか。私は弁護士として、労働条件通知書のみではなく、パート・アルバイトを含む歯科医院の全スタッフと「労働契約書」を取り交わすことをオススメします。
 なぜなら、「労働条件通知書」は使用者側から労働者側に対する一方的な交付で、労働者側の署名等は必要ないからです。つまり、いざというとき「もらっていない」、「聞いていない」と言われる危険性があるのです。
 その点、「労働契約書」は”労働契約書は労使双方が対等に取り交わしている”という点がポイントです。

使用者と労働者が双方で内容を確認して締結しているので、最初に両者の認識合わせが出来るのはもちろん、後々雇用条件についてトラブルになった際も「労働契約書」のほうが有効な証拠とされやすくなります。

次回は
●労働契約書には具体的に何を規定すべきか?
●労働契約書にまつわるトラブル事例とその対処法
を詳しくご紹介します。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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