医療法人の合併の条件と手続
医療法上、医療法人の組織再編で認められる方法として合併が挙げられます。事業承継対策の一つとして、医療法人の合併を検討されている先生方もいらっしゃると思います。
今回は、医療法人における合併の条件と手続について説明いたします。
目次
1 合併とは
医療法上、合併の定義はありませんが、一般的に、合併とは、2つ以上の法人が法定の手続きによって1つの法人となることで、消滅する法人の全資産を包括的に移転させる効果を生じさせるものをいいます。
合併の特徴としては、消滅する法人の権利義務を包括的に承継することにあります(医療法第58条の5、第59条の3)。権利(資産)のみならず、義務(負債)も承継することに注意が必要です。
医療法では、以下の条文により、医療法人の合併が認められています。
第57条 医療法人は、他の医療法人と合併をすることができる。この場合においては、合併をする医療法人は、合併契約を締結しなければならない。
2 合併の種類
合併には、吸収合併と新設合併の2種類があります。
吸収合併は、合併により、1つの医療法人に権利義務の全てを承継させ、それ以外の医療法人は消滅するものをいいます。
新設合併は、2つ以上の消滅する医療法人が、合併により新たな医療法人を設立し、その医療法人に権利義務の全てを承継させるものをいいます。
3 合併の条件
医療法人の類型によって、合併後の法人類型が変わってきます。
整理をすると、以下の図のようになります。
※出典:厚生労働省「第3回 医療法人の事業展開等に関する検討会」資料
4 医療法人における合併の手続
合併の手続きの大きな流れとしては、①合併契約を締結し、②医療法人内部で合併の決議を行い、③都道府県知事の認可を受けるというものになります。認可後には、登記や債権者保護手続が必要となります。
以下で、それぞれの手続の概要を説明します。
4-1 合併契約の締結
合併契約には、合併後の所在地や名称、合併の効力発生日等を記載します(医療法第58条、59条、施行規則35条、35条の4)。合併後2年間の事業計画又はその要旨についても記載事項となっているので、この時点である程度の事業計画を立てておく必要があります。
また、合併契約を締結する際には、互いに資料等を開示して、資産・負債を把握したうえで、認識の齟齬のないようにすべきといえます。開示の際には、秘密保持契約を締結し、他者に法人の内部情報が漏れないような対策を講じる必要があります。
4-2 合併の決議
合併契約を締結した後、医療法人内で同契約を承認する決議をする必要があります(医療法第58条の2、59条の2)。
社団医療法人においては、医療法人の総社員の同意を得なければなりません。
財団医療法人においては、寄付行為に合併をすることができる旨の定めがある場合に限って合併を行うことができます。その場合、寄付行為に別段の定めがある場合を除いて、理事の3分の2以上の同意を得る必要があります。
4-3 認可手続
合併は、合併後の医療法人の主たる事務所の所在地における都道府県知事の認可を受けなければ効力を生じません(医療法第58条の2第4項、59条の2)。
認可に際しては、以下のような書類を添付する必要があります(医療法施行規則第35条の2)。
- ①理由書
- ②議事録
- ③合併契約書の写し
- ④新設合併においては、定款又は寄付行為の作成その他医療法人の設立に関する事務を行うものが各医療法人により選任されたものであることを証する書面
- ⑤合併後存続する医療法人又は合併により新設する医療法人の定款又は寄附行為
- ⑥合併前の各医療法人の定款又は寄附行為
- ⑦合併前の各医療法人の財産目録及び貸借対照表
- ⑧新設合併医療法人又は存続合併医療法人の次の書類
A合併後2年間の事業計画及びこれに伴う予算書
B新たに就任する役員の就任承諾書及び履歴書
C開設しようとする診療所の管理者となるべき者の氏名を記載した書面
D資産要件に適合していることを証する書面
4-4 認可後の手続
医療法人は、認可の通知があった日から2週間以内に、その時点における財産目録及び貸借対照表を作成し、合併登記までの間、主たる事務所に備え置かなければなりません(医療法第58の3、59条の2)。
また、債権者保護手続のため、上記期間内に、異議申立期間についての公告と、判明している債権者に対して個別通知をする必要があります(医療法第58条の4、59条の2)。
債権者保護手続終了後、登記をします。合併は、登記により効力を生じることになります(医療法第58条の6、59条の4)、
4-5 従業員・患者様への対応
医療法に記載されていませんが、合併により運営母体に変更が生じるため、従業員や患者様への説明はしっかりと行うべきといえます。
5 税務関係
合併の税務関係については別の記事で説明する予定ですが、税務上有利な適格合併ができるか否かを検討することが重要といえます。
6 まとめ
合併の手続は、複雑なものであるうえ、税務に関する問題も関わってきます。弁護士や税理士と協同して、後に問題の生じない合併をしていただければと思います。
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