賞与・退職金は自由に決定して良い?

 歯科医院を運営されている先生方にとって、良いスタッフの確保は重要な課題といえます。
 今は歯科医院の従業員も人材難が続いているということも耳にします。そのため、良いスタッフを確保する方法として、賞与・退職金の支給を検討している先生方もいらっしゃると思います。
 今回は、賞与・退職金支給の考え方について説明しています。

1 賞与・退職金の法的性質

 賞与は、一時金、ボーナスとも呼ばれ、夏季冬季2回や歯科医院の業績に勘案して支払う等の定めがなされることがあります。金額・算定方法が使用者の裁量に委ねられている場合には恩恵的給付であって賃金の性質を有するとはいえませんが、雇用契約や就業規則等でその額・計算方法が定められ、それに従って支給される場合には賃金の性質を有します。
 退職金も、賞与と同様、金額・算定方法が使用者の裁量に委ねられている場合には恩恵的給付であって賃金の性質を有するとはいえませんが、雇用契約や就業規則等でその額・計算方法が定められ、それに従って支給される場合には賃金の性質を有します。

2 賞与・退職金の決定方法

 賞与・退職金は、労働契約や就業規則等に支給について定めがあるか否かにより、決定方法が異なります。以下では、定めがない場合とある場合に分けて説明します。

2-1 雇用契約・就業規則等に定めがない場合

 雇用契約・就業規則等に定めがない場合、その法的性質は恩恵的給付ですので、使用者の裁量によって自由に定めることができます。
そのため、歯科医院において支給しないと判断した場合には、支給する必要はありません。
 もっとも、慣習として使用者の裁量によって退職金を支払っているにもかかわらず、突然支給しなくなったりした場合には、その不支給が違法であり、退職金支払義務があると判断される可能性もありますので(東京高裁平成18年7月19日決定等)、この点には注意が必要です。

2 -2 雇用契約・就業規則等に定めがある場合

 雇用契約・就業規則等に賞与・退職金の定めがある場合、当該賞与・退職金は賃金の性質を有するため、不支給にすることは違法となります。
 なお、既に就業規則等で規定している賞与・退職金の定めを廃止することは、不利益変更となりますので、合理的な変更であり、従業員等に周知し、かつ原則として従業員等の同意を得なければなりません。

2 -3 賞与・退職金の減額

 給付基準のある賞与・退職金の減額する場合についても、減額の理由が合理的でなければなりません。
 給付基準がない場合でも、過去の給付した事例と比べて著しく低い場合には、合理的な理由のない限り、過去に給付した事例と同じ基準で給付すべきと判断される可能性がありますので、裁量のみによって賞与・退職金を増減させることにはリスクが伴うといえます。

3 まとめ

 良い人材を確保するためには、条件面を整えていく必要があるといえます。しかし、賞与・退職金の定めを設けると、業績に関係なく支給しなければならなくなる可能性があります。
 メリットデメリットを理解したうえで、賞与・退職金の定めを設けるか否かをご判断いただければと思います。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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