【歯科医院の就業規則】作成ポイント

 以前の記事で就業規則の概要をご紹介しましたので、今回は「では、どういうところに気を付けて作成すべき?」という疑問にお答えします。

1 就業規則を作り始める前に

 個別項目の内容に入る前に、就業規則を作成する際には以下の3点にご注意ください。

1-1 対象スタッフを明確に

 就業規則は、医院で働く全スタッフ(パート・アルバイトも含む)を対象としなければなりません。ですから、雇用形態で労働条件が異なる場合には、正規雇用・パートタイム・臨時雇用などの中の誰を対象としたルールなのかを明確にする必要があります。この点が曖昧だと、正規雇用のスタッフにだけ支給したい賞与や退職金を、パートタイムスタッフから請求されるようなことが起こりえます。あまりに条件が複雑だったり職種ごとに異なったりする場合は、職種ごとに別箇の就業規則を作成した方がわかりやすいでしょう。

1-2 条件の引き下げは困難

 一度就業規則を定めても、社会情勢や医院の経営状況によって、内容を変更したくなることがあるかもしれません。その場合に備え、「労働条件の改定があり得る」旨を記載しておきましょう。ただし、その条項があったとしても、内容をスタッフに不利なものに改訂する(就業規則の不利益変更)には、スタッフとの合意または不利益変更する合理的な理由が必要です。「何かあったら変えればいいや」というスタンスで規定すると、後々先生ご自身が苦しくなりかねないのでご注意ください。

1-3 必要な項目を記載

 就業規則に記載しなければならない項目は法律(労働基準法第89条)で規定されています(前記事をご参照ください)。ここで網羅的に項目が列挙されているので、この内容を参考にして各項目を作ることをオススメします。
 各項目の注意点は、続けて以下にてご説明します。

2 各項目の注意点

 各項目を定める際の注意点について、労働基準法をもとにご紹介します。

2-1 絶対的必要記載項目

(1) 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、シフト勤務の交代期日や順序に関する事項
●1日の就業時間は、【8時間以内】が原則です。
●休日は、最低週に1回または4週4回必要です。
●【1週間の法定労働時間は40時間まで】という限度も考慮して、休日を設定しましょう。
●時間外労働(残業)の扱いについても記載が必要です。歯科医院は患者対応やカルテ整理等で、どうしても勤務時間が延びてしまうことがあります。時間外労働を命じることがある、また必要に応じて休日に労働を命じることがある旨も、念のためここに記載しておきましょう。

(2) 賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項
 賃金に関してはトラブルになることも多いので、要注意です。
●時間外労働の割増賃金率などは、ここで明確に定めましょう。
●通常の給与に加えて通勤手当や住宅手当、試用期間中の賃金規定がある場合は、全て記載します。
●昇給については、タイミングや決定方法のほか、会社の業績や個人の能力により昇給がない場合もある旨を書いておきましょう。

(3) 退職・解雇の事由に関する事項
 退職は、近年特に紛争となりやすい項目です。退職に関する事項は、網羅的に記載しておいたほうが良いですね。
●就業規則に定めが無い事由で解雇することは困難ですので、具体的に普通解雇、懲戒解雇とその事由を規定しておきましょう。
●スタッフの少ない医院では、急な退職への対応は厳しいものです。退職する際にはいつまでに、誰に報告し、どんな手続きをとるのか、を規定しておくと安心です。

また、他にも
●退職時には業務の引き継ぎを行うこと
●顧客データを持ち出さないこと等を定めた守秘義務に関する誓約書を提出すること
●支給した制服や名札等を返還すること
等の事項を定めておき、スタッフの入れ替わり時にスムーズに行えるようにしておくことが望ましいです。

2-2 相対的必要記載項目

(1) 退職手当に関する事項
 法律上は、退職金を支給する義務はありません。ただ、退職金はスタッフが退職した後の重要な資金となりますし、スタッフが安心して働ける環境を整えるためにも、できるだけ安定的な支給が望まれます。

(2) 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
 「賞与」も法律上は支給する義務がありませんが、こちらはスタッフのモチベーションを上げるために規定したい項目です。ただし、就業規則で支給を規定すると、支給義務が発生しますので、医院の経営状態、その他のやむを得ない事由がある場合は支給されないことがある旨を記載しましょう。

(3) スタッフの服務規律に関する事項
 歯科医院では、患者からお菓子や、中には現金の謝礼を渡されることもあるようです。患者からの金銭・物品を一切受け取らないのか、受け取るならば誰に報告するのかなど、対応を明確にして就業規則に定めておくと安心です。

(4) カルテの取扱いに関する事項
 歯科医院でカルテに記載された事項は、個人情報の中でも特に秘密性が高い情報です。個人情報の漏洩などが大きくニュースでも取り上げられる現在、歯科医院にとっても他人ごとではありません。
 スタッフに対して個人情報保護の教育を行うことはもちろん、就業規則で個人情報の厳重な取扱いを定めることで、内外に医院の姿勢を示しましょう。

(5) その他
 以下の事項も、人事・労務に関連したトラブルを起こさないためには重要な項目です。それぞれ医院の実態に合わせて、具体的に設定しましょう。
・安全衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰、制裁に関する事項
・その他全労働者に適用される事項

3 就業規則を作ったら

 就業規則には、周知義務があります。つまり、就業規則は作った(もしくは労働基準監督署に提出した)だけでは十分ではなく、それを医院の全スタッフに公表して初めてその効力が発生するということです。周知方法は、印刷して全員が見られる場所に置くか、1人ひとりに配布すること、加えて近年は誰もが見られるデータとして用意しても良いとされています。
 スタッフ全員と就業規則を共有して安定した医院運営をすすめましょう。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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