副業・兼業を認めることのメリットデメリット
副業・兼業を希望する方は年々増加傾向にあります。
厚生労働省も「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、副業・兼業を促しています。
先生方としては、従業員に歯科医院の業務に専念してほしいという気持ちがあると思います。
一方で、従業員の確保という観点からすれば、副業・兼業を認めた方が良いのではないかという考え方もあります。
そうすると、歯科医院に勤務する従業員から副業・兼業をしたいという希望が出た場合、先生方としては、それを認めるべきかどうか迷われるのではないでしょうか。
今回は、副業・兼業を認めるか否かを検討する際の参考になるよう、副業・兼業を認めることのメリットデメリットについて説明いたします。
目次
1 歯科医院側からみる副業・兼業のメリット
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」によれば、歯科医院側からみる副業・兼業を認めることのメリットとして、以下の事項が挙げられています。
- ①労働者が歯科医院内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
- ②労働者の自立性・自主性を促すことができる。
- ③優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
- ④労働者が歯科医院外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。
この中で、歯科医院側にとっての一番大きなメリットとしては、③優秀な人材の獲得・流出の防止にあると思います。
2 歯科医院側からみる副業・兼業のデメリット
一方、歯科医院側からみる副業・兼業を認めることのデメリット(留意点)としては、以下の事項が挙げられています。
数だけで見ると、デメリットよりもメリットの方が多いですが、このデメリットは、歯科医院側にとって大きなものといえますので、メリットが多いからといって安易に副業・兼業を認めるという選択をとるべきではありません。
以下では、副業・兼業を認めた場合に、デメリットに関して歯科医院側が対応しなければならない事項を説明します。
3 副業・兼業を認めた場合に歯科医院がとらなければならない対応
副業・兼業を認める場合、歯科医院としては以下の対応をする必要があります。
3-1 労働時間の管理
労働基準法第38条には、以下の規定があります。
第三十八条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
つまり、兼業や副業のように、従業員が複数の会社で勤務している場合には、労働時間は通算されるということです。
そうすると、副業・兼業を許可した場合、先生方は、自院で働いた時間のみならず、他の職場で働いた時間を把握し、管理する必要があります。
さらに、副業・兼業先と従業員との契約関係や就業実態が雇用であった場合、残業時間も通算されるので、残業代を支払わなければならなくなる可能性もあります。
例えば、副業・兼業している従業員が月曜日から金曜日までの間に週40時間労働している場合、歯科医院に土曜日勤務したとすると、土曜日の勤務は法定の週40時間を超過した勤務となりますので、その分の割増賃金を歯科医院側が支払わなければならないということになります。
このように、労働時間管理の点で、副業・兼業を認めることには相当注意する必要があるといえます。
なお、副業・兼業先と従業員との契約関係・就業実態が雇用でない場合や、副業・兼業を個人事業主として行っている場合には労働時間の通算の規定は適用されませんが、歯科医院側としては、従業員の健康管理の観点から、このような場合にも就業時間を把握していることが望ましいとされています。
3-2 健康管理
歯科医院側は、従業員が副業・兼業しているか否かにかかわらず、健康確保措置を実施する必要があります。
昨今では、労働者の「働きすぎ」が原因で精神疾患を抱えてしまうといった事象がたびたび問題となっており、この点を是正するために働き方改革関連法も施行されましたので、歯科医院側としては、定期健康診断の実施や時間外労働の抑制等の健康確保措置を実施する必要があるといえます。
3-3 職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務の確保
当然ながら、従業員が自院で働いているときは自院の業務に集中してもらう必要がありますので、歯科医院としては、就業規則等に職務専念義務に関する規定を設けることにより、副業・兼業と自院での業務とを明確に区別するような対応をする必要があります。
また、歯科医院の保有する個人情報や営業秘密の漏えいを防ぐため、従業員との間で秘密保持契約や競業避止義務契約を締結することも検討する必要があります。
もっとも、これらの事項はいくら対策をしても完全に防ぎきれるものではないため、従業員と信頼関係を築くことがもっとも重要といえます。
4 まとめ
今回は副業・兼業を認めることのメリットデメリットについて解説しました。
副業・兼業を認める場合にも、認めない場合にも、就業規則や個別の契約で副業・兼業の条件を設定することが重要です。
メリットデメリットを見極め、どちらの対応をとるのかを決めていただければと思います。
この記事が歯科医院の労務管理の参考になれば幸いです。
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