働き方改革関連法が歯科医院に与える影響

平成30年4月1日からいわゆる働き方改革関連法(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が随時施行されます。

働き方改革関連法は、歯科医院にも影響を与えるものです。

労働力不足に悩んでいる医院が多い中、働き方改革関連法を遵守しなければ、労働者が退職してしまう可能性もあるため、歯科医院を運営する先生方もその内容を理解しておかなければならないといえます。

今回は、働き方改革関連法が歯科医院に与える影響について説明いたします。

なお、働き方改革関連法では、「大企業」と「中小企業」で規制の実施時期が異なりますが、ほとんどの歯科医院や医療法人は「中小企業」に該当しますので、以下では、「中小企業」である歯科医院・医療法人を対象とした適用時期について解説します。

なお、働き方改革関連法における規制の内容をまとめてみたいという先生方は、「4 まとめ」に主な規制の内容及び適用時期をまとめた図をのせておりますので、そちらをご参照ください。

1 働き方改革関連法の全体像理念

働き方改革関連法は、「労働時間法制の見直し」及び「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」を基本方針として、各種規制の改正がなされるものです。

主な内容としては、以下にまとめることができます。

  1. 労働時間法制の見直し
  2. ①残業時間の上限の規制
  3. ②年5日間の年次有給休暇付与の義務付け
  4. ③高度プロフェッショナル制度の創設
  5. ④フレックスタイム制の拡充
  6. ⑤勤務間インターバル制度の導入(努力義務)
  7. ⑥労働時間の客観的な把握の義務づけ
  8. ⑦産業医・産業保健機能の強化
  9. ⑧月60時間超の割増賃金率の引上げ
  1. 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
  2. ①不合理な待遇差をなくすための規定の整備
  3. ②労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
  4. ③行政による助言・指導等や行政ADRの規定の整備

以下では、上記各事項の改正の内容及びその適用時期について説明します。

2 労働時間法制の見直し

労働時間法制を見直すこととなった目的は、「働きすぎ」な状態を防ぎながら、「ワーク・ライフ・バランス」と「多様で柔軟な働き方」を実現することです。
具体的な規制内容は、以下で説明いたします。

2-1 ①残業時間の上限の規制

改正前の労働基準法では、残業時間の上限はなく、36協定(労働者と使用者の労使協定)の内容によっては、残業の合計時間を特段気にせずにスタッフに残業をさせることができました。

しかし、働き方改革関連法により、残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別な事情があって労使協定があった場合でも、年720時間以内・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)・月100時間未満(休日労働を含む)を超えることができず、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月までとなりました。

月45時間は、1日当たりでいえば2時間程度の残業に相当するため、業務が忙しく、残業が常態化してしまっている歯科医院にとっては、厳しい規制といえます。

この規制の実施がはじまる時期は、2020年4月からとされています。

なお、雇用されている歯科医師にもこの規制は適用されますが、歯科医師の業務の特殊性から、歯科医師については、2020年4月からではなく、改正法施行5年後に上限規制を適用することとされています。

この規制に対する違反は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となりますので、注意してください。

2-2 ②年5日間の年次有給休暇付与の義務付け

改正前は、年次有給休暇の取得は、労働者が自ら申し出なければ取得できないものとなっていました。

しかし、実際には労働者側から有給休暇の申し出をしにくいという状況があったため、働き方改革関連法では、使用者が労働者の希望を聴き、希望を踏まえて時季を指定し、最低5日間は年次有給休暇を取得させなければならないという内容になりました。
この規制は、年次有給休暇が10日以上与えられる従業員が対象となります。

この規制の実施がはじまる時期は、2019年4月からとされています。

つまり、先生方としては、2019年4月までに、スタッフから年次有給休暇の希望を聴き、希望を踏まえて時季を指定すべきといえます。

先生方は、スタッフのシフトを組むことにも大変な思いをされていると推察しますが、この規制の適用により、シフトを組む際に気を付けなければならない事項が増えることとなります。

計画的な有給休暇の予定を組まなければ、最悪の場合、年次有給休暇を消化していないスタッフを一気に休ませなければならず、歯科医院の運営にとって大きなダメージとなるからです。

そして、先生方にとっては、働き方改革関連法のなかで、この規制が喫緊の課題といえます。

この規制に対する違反は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となるほか、違反した事業者は公表の対象にもなりますので、注意してください。

2-3 ③高度プロフェッショナル制度の創設

高度な専門的知識を持ち、高額な年収(具体的に年収1075万円を想定)を得ている従業員は、「高度プロフェッショナル」として、上記の労働時間規制を外すことができるようになりました。

もっとも、高度プロフェッショナル制度を導入するためには、ⅰ 事業場の労使同数の委員会(労使委員会)で、対象業務、対象労働者、健康確保措置などを5分の4以上の多数で決議すること、ⅱ 書面(職務記述書等)による本人の同意を得ること(同意の撤回も可能です)が必要となります。

さらに、高度プロフェッショナル制度の対象となる従業員に対しては、年間104日以上、かつ4週4日以上の休日確保を義務付け、在社時間等が一定時間を超えた労働者に対しては医師による面接指導を実施させることに加え、以下のいずれかの措置を義務付ける必要があります。

  1. ⅰ インターバル規制(終業・始業時刻の間に一定時間を確保+深夜業の回数を制限)
  2. ⅱ 在社時間等の上限の設定
  3. ⅲ 1年につき2週間連続の休暇取得(従業員が希望する場合には1週間連続×2回)
  4. ⅳ 臨時の健康診断の実施

この制度の実施がはじまる時期は、2019年4月からとされています。

2-4 ④フレックスタイム制の拡充

フレックスタイム制は、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度です。

働き方改革関連法により、清算期間の上限が従来の1か月から3ヶ月に延長されましたので、より柔軟な労働時間の調整ができるようになりました。

もっとも、歯科医院の場合には、診療日や時間が決まっているため、フレックスタイム制を導入している医院は多くありません。
そのため、この点については知識として知っておいていただく程度で十分かと思います。

なお、この制度の実施がはじまる時期は、2019年4月からとされています。

フレックスタイム制を導入するには、労使協定の届け出をする必要があり、届出を怠った場合には、30万円以下の罰金の対象となりますので、注意してください。

2-5 ⑤勤務間インターバル制度の導入(努力義務)

勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間を確保する仕組みです。

この制度は、努力義務として設けられており、同制度を設けていなくても罰則等はありませんが、設けることが望ましいとされています。

この制度が導入される時期は、2019年4月からとされています。

2-6 ⑥労働時間の客観的な把握の義務づけ

改正前は、裁量労働制が適用される人や管理監督者については、必ずしも労働時間を把握する必要はないとされていました。

働き方改革関連法では、健康管理の観点から、裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、すべての従業員の労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握されるよう法律で義務づけられました。

これにより、長時間働いた労働者に対する、医師による面接指導の実施を確実なものにするという狙いがあります。

この規制の実施がはじまる時期は、2019年4月からとされています。

2-7 ⑦産業医・産業保健機能の強化

産業医とは、労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導や助言を行う医師をいいます。

労働安全衛生法では、労働者数50人以上の事業場においては、産業医の選任が義務づけられています。
労働者数50人未満の事業場においては、産業医の選任は義務づけられていませんが、労働者の健康管理を医師等に行わせるように努めなければならないとされています。

働き方改革関連法では、この産業医との情報連携を強化することが定められています。

歯科医院の場合には、労働者数が50人以上となる医院は多くないため、この点についても、知識として知っておいていただく程度で十分かと思います。

なお、この制度の実施がはじまる時期は、2019年4月からとされています。

2-8 ⑧月60時間超の割増賃金率の引上げ

改正前は、月60時間超の残業割増賃金率について、「大企業」においては50パーセントですが、「中小企業」においては25パーセントとなっていました。

働き方改革関連法では、「中小企業」に関しても、月60時間超の残業割増賃金率は50パーセントと引き上げられましたので、注意が必要です。

この規制の実施がはじまる時期は、2023年4月からとされています。

この規制は、他の規制と比べ、実施時期が先となっていますので、今すぐに対策を講じる必要はありません。

もっとも、割増賃金率は歯科医院の財務状況に影響を与えるものですので、実施時期ぎりぎりになって対策を考えるということにならないよう、今のうちから残業時間を少なくする方向で考えた方が良いといえます。

3 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を定める目的は、雇用形態に関わらず、業務の内容は一緒であるケースも多いため、同一企業内における正社員と非正規社員の間にある「不合理な待遇の差」をなくし、従業員がどのような雇用契約を選択しても納得できるようにするということです。
具体的な規制内容は、以下で説明いたします。

3-1 ①不合理な待遇差をなくすための規定の整備

改正前の労働基準法では、労働期間の定めのある有期雇用労働者について、職務内容等によって正社員との不合理な待遇差や差別的取扱いを明確に禁止する規定はありませんでした。

しかし、働き方改革関連法により、パート社員や有期雇用労働者について、正社員とそれ以外の者の間での不合理な待遇差や差別的取扱いを明確に禁止する規定が設けられました。

そのため、待遇に差がある従業員については、職務内容が同内容かどうかをチェックし、職務内容が同内容であれば差をなくす措置を、同内容でなければ待遇差が不合理ではないと説明できる資料を整えておく必要があります。

待遇差をなくすための具体的対応については、厚生労働省が公表している「同一労働同一賃金ガイドライン」(正式名称:短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)をご参照いただければと思います。

この規制の実施がはじまる時期は、 2021年4月からとされています。

3-2 ②労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

働き方改革関連法により、非正規社員は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に対して説明を求めることができるようになりました。

この規制の実施がはじまる時期は、 2021年4月からとされています。

3-3 ③行政による助言・指導等や行政ADRの規定の整備

働き方改革関連法により、行政による裁判外紛争解決(行政ADR)の規定を整備し、待遇差や待遇差の内容・理由に関する説明についても、行政ADRの対象となることになりました。

この規制の実施がはじまる時期は、 2021年4月からとされています。

4 まとめ

以上の実施内容や時期を図にまとめると、以下のとおりとなります。
この中でも、歯科医院を運営する先生方にとって特に重要だと考えられるものについては、赤字で記載しています。

労働時間法制の見直し 実施時期
①残業時間の上限の規制 2020年4月~
②年5日間の年次有給休暇付与の義務付け 2019年4月~
③高度プロフェッショナル制度の創設 2019年4月~
④フレックスタイム制の拡充 2019年4月~
⑤勤務間インターバル制度の導入(努力義務) 2019年4月~
⑥労働時間の客観的な把握の義務づけ 2019年4月~
⑦産業医・産業保健機能の強化 2019年4月~
⑧月60時間超の割増賃金率の引上げ 2023年4月~
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保 実施時期
①不合理な待遇差をなくすための規定の整備 2019年4月~
②労働者に対する待遇に関する説明義務の強化 2019年4月~
③行政による助言・指導等や行政ADRの規定の整備 2019年4月~

働き方改革関連法を遵守できるか否かにより、良い労働力が自院に残るか否かも決まってきます。

喫緊の課題については、なるべく早く対策を立てられるようにしておきましょう。

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弁護士法人ピクト法律事務所
担当弁護士櫻井良太
歯科医院を経営する先生方は、診療のことだけでなく、医院の経営もしていかなければなりません。経営に関する問題は様々な法律が関わっており、一筋縄ではいかないものもあります。先生方の経営をお支えします。ご気軽にご相談ください。

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