従業員の衛生・健康管理
歯科医師は、患者様の口腔内の疾患等を治療することを業務としていますので、治療時の患者様の健康状態には常に注意していることと思います。
歯科医院を運営する立場の先生方は、これに加え、従業員の衛生・健康状態にも注意しなければなりません。
今回は、歯科医院を運営する先生方が知っておくべき従業員の衛生・健康管理について説明いたします。
なお、以下で説明する事項を就業規則等で定めている場合には、当該規則が優先しますので、当該規則に従って運用してください。
目次
1 健康診断を受けさせる義務
法律上、事業主は、「常時使用する労働者」に対して、雇入れ時と1年以内ごとに1回定期的に健康診断を行わなければならないとされています(労働安全衛生法66条1項、同規則43条、44条1項)。この義務に違反した場合には、50万円以下の罰金に処せられますので(同法120条1号)、注意してください。
厚生労働省の見解では、「常時使用する労働者」とは、次のいずれの要件も満たす場合をいいます(平26年7月24日基発0724第2号・職発0724第5号・能発0724第1号・雇児発0724第1号)。
- ①期間の定めのない契約により使用される者であること。期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者及び更新により1年以上使用されている者
- ②その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること
上記要件に該当するのであれば、パートやアルバイトであっても定期健康診断を受けさせなければなりません。
2 定期健康診断の事項
定期健康診断で受けさせなければならない事項は以下のとおりです。
- ①既往歴及び業務歴の調査
- ②自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- ③身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- ④胸部エックス線検査及び喀痰検査
- ⑤血圧の測定
- ⑥貧血検査
- ⑦肝機能検査
- ⑧血中脂質検査
- ⑨血糖検査
- ⑩尿検査
- ⑪心電図検査
3 健康診断を受けることは労働者の義務でもある
他方、労働者も事業者の行う健康診断を受けなければならない義務があるとされています(労働安全衛生法66条5項)。事業者の指定する医療機関による健康診断を受けることを希望しない場合には、他の医療機関による健康診断を受け、その結果を証明する書面を提出する必要があります。
4 健康診断の費用
健康診断の費用については、事業者に義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものとなります(昭和47年9月18日基発第602号)。また、健康診断の受診に要した時間に対する賃金の支払については、事業者が支払うことが望ましいとされています。
5 保存義務・秘密保持義務
事業者は、健康診断個人票を5年間保存する義務があります(労働安全衛生法66条の3、同規則51条)。
また、健康診断の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはなりません(労働安全衛生法104条)。もし歯科医師が秘密漏洩してしまった場合は、刑法によって処罰されることになってしまいますので(刑法134条1項)、健康診断の結果の取扱いには十分に注意する必要があります。
6 健康診断で異常所見が見つかった場合
健康診断によって労働者に異常所見が見つかった場合、事業者は、その事後措置について医師の意見を聴かなければなりません(労働者安全衛生法66条の4)。そして、この意見を勘案し、必要と認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講じる他、作業環境の測定、施設・設備の設置・整備その他の措置を講じなければならないとされています(同法66条の5)。
なお、これらの事後措置義務は、労働者が使用者に対して上記事後措置をとることを請求できるような具体的義務ではなく、義務違反があったからといって罰則はありません。
7 妊産婦における注意点
労働者が妊産婦の場合には、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じることが義務付けられています(男女雇用機会均等法13条)。
8 まとめ
今回のまとめとしては、以下のとおりとなります。
- ・歯科医院は、「常時使用する労働者」に対して、定期健康診断を受けさせなければならない
- ・「常時使用する労働者」には、パートやアルバイトであっても該当する可能性がある
- ・健康診断の費用は歯科医院で負担する必要があり、健康診断結果の保存義務もある
患者様の健康状態だけでなく、従業員の衛生・健康状態にも意識を向けることにより、盤石な運営体制を築いていってください。
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